◇フード・マイレージ資料室 通信 No.115◇
2017.3/28(火)[和暦 弥生朔日]発行
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◆ F.M.豆知識 高まる都市住民の「田園回帰」願望
◆ O. カレント 塩見直紀さん
◆ ほんのさわり 荻原 浩『ストロベリーライフ』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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季節は春分の次候「桜始開(さくらはじめてひらく)」。
文字通り各地から桜の開花の便りが届き、来たる新年度には新たなスタートを切られる方達も多いかと存じます。今号は「田園回帰」をテーマにしてみました。
時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月の日)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今回は弥生朔日の配信です。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるような話題を毎回コツコツと紹介していきます。
-高まる都市住民の「田園回帰」願望-
内閣府では、政府の施策に関する国民の意識を把握するため、毎年度10本ほどの世論調査を実施しています。また、間隔をおいて同様の調査を実施することによって、国民意識の過去からの変化の様子をみることもできます。
2014年6月には「農山漁村に関する世論調査」が実施されました。
これは、農山漁村に関する国民の意識を把握し今後の施策の参考とすることを目的として実施されたもので、農村や中山間地域の役割、都市と農山漁村の交流の必要性、都市住民の農山漁村地域への定住願望の有無等について調査がなされました。
なお、調査対象は全国の市区町村に居住する満20歳以上の3,000人です。
このなかで、都市住民の農山漁村地域への定住願望の有無について調査した結果がリンク先の図70です。
http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2017/03/70_teiju.pdf
これは、居住地域に関する認識について「都市地域」「どちらかというと都市地域」と答えた者 (都市住民、1,147人)に、農山漁村地域に定住してみたいという願望があるかどうかを聞いたもので、全体では「ある」とする者が31.6%、「ない」とする者が65.2%となっています。 これを前回の調査結果(2005年11月)と比較すると、「ある」とする者が11ポイント上昇する一方、「ない」とする者は逆に11ポイントほど低下していることが分かります。
次に定住願望がある者の割合を性別にみると、男性36.8%、女性26.7%と男性の方が高くなっており、年齢階層別では20~29歳層が38.7%と最も高くなっています。
なお、いずれの数値も前回よりも上昇していること分かります。
このように都市住民の約3割は農山漁村地域への定住願望を有しており、しかもその割合は約10年前と比べても若い男性を中心に高まっています。都市住民の「田園回帰」願望は、強いものとなっていると言えます。
なお、本調査では「定住願望実現のため必要なこと」等についても調査されており、6 割以上が「医療機関 (施設)の存在」「生活が維持できる仕事があること」が必要と回答しています。
[参考]
内閣府大臣官房政府広報室「農山漁村に関する世論調査」(2014年6月調査)
http://survey.gov-online.go.jp/h26/h26-nousan/index.html
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-F.M.豆知識」
http://food-mileage.jp/category/mame/
◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方やトピックス等を紹介します。
-塩見直紀さん-
塩見直紀(しおみ・なおき)さんは1965年、京都・綾部市の生まれ。
33歳の時に退職して故郷にUターンされ、現在は半農半X研究所と綾部ローカルビジネスデザイン研究所の代表、福知山公立大学地域経営学部特任准教授、総務省地域力創造アドバイザー等を務めておられる方です。
著書の『半農半Xという生き方』(ソニー・マガジンズ、2003)は海外でも翻訳され、講演やワークショップで全国各地を回っておられます。
塩見さんは、大手カタログ通販会社に勤めていた20歳代半ばに、環境問題と天職問題(いかに生きるか)という2つの難問に出会ったとのこと。そして、これらを解決する方策を追求するなかで「半農半X(はんのう・はんエックス)」というシンプルで新しい言葉(コンセプト)を創り出されました。
「半農半X」とは、持続可能な農ある小さな暮らしをベースにして(半農)、生きがい・天職を活かしつつ(半X)、個人と社会が調和しながらともによりよい方向へ進むために、微力であっても自分がその主役になる生き方を模索することとのこと。
塩見さんは「半農半X」を、ご自身の「人生での思想的到達点」とも言われています。
ちなみに今でこそ移住や「田園回帰」という言葉がよく聞かれるようになりましたが、塩見さんが「半農半X」を提唱され始めたのは20年も前ですから、その先見の明には脱帽します。
去る3月19日(日)、東京・八王子市のクリエイトホールで「小さな農と生きがいのある人生-『半農半X』という生き方」と題する講演会が開催されました。
前半は「半農半X」のコンセプトやそれが必要とされる背景など、理論的な(哲学的とも言える)講演、後半は「自分とまちの“エックス”をデザインする」ワークショップです。多くのキーワードを書き出し、これらを他の人と交換・組み合わせることによって、新しい自分づくり、まちづくりをデザインできるという内容です。
市町村から個人までの「X(=天職)」を応援する「ミッションサポート」と「コンセプトメイク」がライフワークという塩見さん。
塩見さんに頂いた貴重なヒントやノウハウを活用しつつ、私も自分の「X」を探していきたいと思います。
[参考]
塩見直紀さんブログ「半農半Xという生き方~スローレボリューションでいこう。」
https://plaza.rakuten.co.jp/simpleandmission/
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-オーシャン・カレント」
http://food-mileage.jp/category/pr/
◆ ほんのさわり
食や農の分野について、考えるヒントとなるような本の「さわり」だけを紹介します。
-荻原 浩『ストロベリーライフ』(2016年9月、毎日新聞出版)-
http://mainichibooks.com/books/novel-critic/post-339.html
グラフィックデザイナーの望月恵介(36歳)は、農業なんか格好悪いと父親と大喧嘩して静岡・富士山麓の実家を飛び出し、東京の美大に進学・卒業して広告代理店に就職。その後独立したものの、注文の電話はなかなか鳴りません。
そのようなある日、父親が倒れたとの連絡。慌てて実家に戻ると、救急車で病院に運ばれた父親は脳梗塞で半身不随。2棟の苺のハウスは、正に収穫期を迎えていました。
やむを得ず手伝い始めた農作業。ところが父親が丹精込めた苺をかじり、思わず「うまい」と声が洩れます。
父親が丹念に書き留めてきた農作業日誌、腰痛をこらえて収穫作業に精を出す母親の姿、アスファルトではなく農地が当たり前に広がる「ふつうの景色」、そして体験で受け入れた保育園児たちが苺を口にした途端にくしゃっとなる笑顔。
恵介は次第に農業に惹かれ、手伝いを口実にしばしば実家に帰るようになります。
そのため、都会っ子で虫が大嫌いの妻との仲は次第に噛み合わなくなっていきます。昆虫図鑑が大好きなはずの5歳の息子も、生きているテントウ虫を手に取らされて悲鳴を上げるなど、家族も危機に。
一方で広告のプロである恵介は「農家にはお客さまが足りない」と感じます。
「生産者の顔の見える作物はあっても、多くの農家には自分の作る作物を食べている消費者の顔が見えていない」と。そこで恵介は、ネット販売、観光農園、スーパーやレストランとの直販に取り組んでいくのです。
広告デザインの仕事もあきらめた訳ではありません。
「農業もフリーのデザイナーも不安定な自営業だが、だからこそ、2つの仕事があれば少しは安心できる。兼業上等。多角経営だと思えばいい」。恵介が選んだのは「半農半デザイナー」の道です。
ラストシーンは、満を持した観光農園オープンの日。
なかなかお客さんが来ないことにやきもきするうち、朝方は曇っていた富士が姿を現した時、他の客達とバスを降りて向かってきたのは・・・。
直木賞作家が描く日本農業と家族の未来への応援歌です。
[参考]
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-ほんのさわり」
http://food-mileage.jp/category/br/
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 古座川の聖なる食材を楽しむ夕べ (3/19)
http://food-mileage.jp/2017/03/19/blog-7/
○ 「半農半X」という生き方 (3/22)
http://food-mileage.jp/2017/03/22/blog-8/
▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。
○ 「地域と共に生きる」~高野病院の歩み~
日時:4月4日(火)19:00~21:00
場所:番來舎(東京・目黒区駒場1)
主催:番來舎
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/1237190416379722/
○ ちょこたび埼玉酒蔵めぐりin小川町
日時:4月8日(土)10:00~15:30
場所:埼玉・小川町
主催:小川町酒蔵めぐり実行委員会
(詳細、お問合せ等↓)
http://www.town.ogawa.saitama.jp/0000001398.html
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*今号のコツコツ小咄。
「桜の花芽は、よちよち歩きを始めたばかりの赤ちゃんみたい」
「ほ、転びそう(綻びそう)」
注:「コツコツ小咄」は、拙FBページにて土日祝を除く毎日、絶賛(?)投稿中です。
拙ウェブサイトにも掲載しています。
http://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.116は、4月11日(火)[弥生十五日]の配信予定です。
より有用な情報の発信に努めていきたいと改めて考えていますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
http://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
http://food-mileage.jp/
ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
http://food-mileage.jp/category/blog/
発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/