【メルマガ】F.M.Letter No.169

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.169◇
 2019年6月3日(月)[和暦 皐月朔日]発行
────────────────────
◆ F.M.豆知識  衣類の自給率の推移
◆ O.カレント  もんぺ製作所NIIGATA
◆ ほんのさわり 司馬遼太郎『潟のみち』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
────────────────────
 和暦では皐月に入りました。全国的に水不足の今年、五月雨が慈雨となるでしょうか。
 時の流れを体感するため、本メルマガは和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

-衣類の自給率の推移-
 日本の食料自給率は、1970年代にはカロリーベースで70%以上、生産額ベースでは90%前後であったのが長期的に低下傾向で推移し、1990年代以降はほぼ横ばいで推移しています(2017年はカロリーベース38%、生産額ベース66%)。
 食料自給率が諸外国に比べても低いことは比較的よく知られているところですが、「衣食住」と言われるように、食料と同様に生活にとって最も基礎的な物資である衣類の自給率はどうなっているでしょうか。  リンク先の図169は、食料と衣類の自給率の推移を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2019/06/169_irui.pdf

 これによると、国内アパレル市場における衣類の自給率は、1990年代初めには数量(点数)ベースで50%近くあったのが大きく低下し、2000年代に入ってからも低下傾向で推移しています(2017年2.4%)。
 また、金額ベースでも、1990年代は6割以上あったのがやはり低下傾向で推移しており、2015年には22.3%となっています。
 この間、国内の繊維産業は、事業所数、製造品出荷額とも約1/4に縮小しています。

 このように、衣料の自給率は、食料と比べても非常に低い水準にあるのです。

[出典等]
農林水産省「食料需給表
 http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/
経済産業省「繊維産業の課題と経済産業省の取組(2018.6)
 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/fiber/pdf/1806seni_kadai_torikumi2.pdf

◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

-もんぺ製作所 NIIGATA-

 東京でパタンナーとして活躍していた赤木(谷内)美名子さんが、日本酒造りをしたいというご主人とともに新潟・上越市の山間部にある大賀地区に移住されたのは2013年7月のこと。
 ここでパタンナーの仕事を続けつつ、念願であった棚田での米作りを始められました。翌年にはお嬢さんも誕生。
 農作業着としてもんぺを履くことが増え、パタンナーの視点から、もっと素敵なもんぺができるのではと思い始めたとのこと。

 また、新潟の地で様々な方と交流するうち、流行に流されない、長く愛される確かなモノづくりをしたいという気持ちも強くなっていったそうです。
 特に、新潟の伝統織物・亀田縞と初めて出会った時は、その美しさ、優しさ、素朴さに魂が揺さぶられたとのこと。
 雪国という厳しい風土の中で生きる新潟の人々の体温と、技術の粋を、もんぺに乗せたいと決意し、2018年12月、「もんぺ製作所」を立ち上げました。

 美名子さんのもんぺは、専門学校で学んだ「服装解剖学」(人体の構造とパターンを関連付けるもの)の知識を活かして、デザイン性(シルエットの美しさ)と実用性(着心地や機能性)を兼ね備えています。
 そして染色、織り、整理加工は新潟の企業が、縫製は主に新潟の山間や海辺の女性たちが担います。ロゴマークのデザインも含め、正に「オール新潟」です。

 新潟県下を始め、各地で受注展示会も開催しています。
 私も去る5月18日(土)には、東京・吉祥寺で開催された会に足を運びました。
 紺を基調とした奥深い美しさ、着心地の良さは、近くで見て、試着させて頂くことで実感できました。

 日本有数の豪雪地に移住した女性の都会的な感性が、新潟の職人達の経験や技術と結びついて誕生した「オール新潟」のもんぺ。
 そのなかに込められた新しいライフスタイルや価値観は、新潟の山間部の小さな集落から、全国に向けて発信されています。

[参考]もんぺ製作所 NIIGATA
 https://monpeseisakusho.com/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

-司馬遼太郎『潟のみち』(2008.10、朝日文庫(街道をゆく9))-
 https://publications.asahi.com/kaidou/09/index.shtml 

 「農業というのは、日本のある地方にとっては死に物狂いの仕事であったように思える」
 本書の冒頭の文章です。
 1975年11月、新潟・亀田郷(現在は新潟市の一部)を訪ねる作家は、それに先立ち、亀田郷の土地改良の歴史と現状を描いた映画を観て衝撃を受けます。
 そのなかでは、昭和30年ごろまで、淡水の潟にわずかな土をほうりこんで苗を植え(というより浮かせ)、田植えの作業には背まで水に浸かりながら背泳のような姿勢で行われている様子が記録されていました。

 映画を観終えた作家は、しばらくぼう然とし、「食を得るというただ一つの目的のためにこれほどはげしく肉体をいじめる作業というのは、さらにはそれを生涯くりかえすという生産は、世界でも類がないのではないか」と記します。
(「オーシャン・カレント」欄で触れた亀田縞は、このような風土の中で生まれ、育まれてきたものです。)

 そして実際に亀田郷を訪ねた作家は、巨大なポンプによって排水することで水田地帯となっている様子を見、名物理事長と言われた佐野藤三郎氏や、大正末期の小作争議に関わった方たちとの面会を通じて、この地が豊かな農地になるまでの長い苦難の歴史を実感するのです。

 同時に作家は、そのように苦労して造成された農地の多くが、現在は宅地化され、あるいはラブホテルが立ち並び、ゴミが捨てられている景色も目の当たりにし、「1億人の人間が土地を投機の対象と信じていること自体、経済的狂人の社会でしかない」と嘆きます。

 この辺りから、作家の生涯のテーマとなる土地所有の問題(私有か公有か)が芽生えたのかも知れません。

[参考]亀田郷土地改良区
 http://www.kamedagou.jp/

◆ 情報ひろば  拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ もんぺ製作所受注展示会 @東京・吉祥寺[5/22]
 https://food-mileage.jp/2019/05/22/blog-197/

○ 埼玉・小川町の田んぼ、カモミール[5/25]
 https://food-mileage.jp/2019/05/25/blog-198/

○ 食は人をつなぐ・4題[5/30]
 https://food-mileage.jp/2019/05/30/blog-199/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。
○ 奥沢ブッククラブ第45回 ロアルド・ダール『あなたに似た人』
 日時:6月10日(月)18:30~21:00
 場所:シェア奥沢(東京・自由が丘)
 主催::奥沢ブッククラブ
 (詳細、お問合せ先等↓)
  https://www.facebook.com/events/329303187749071/

○ 幸せと経済と社会について考える読書会(『平成の通信簿』)
 日時:6月10日(月)18:30~19:00
 場所:中央区産業会館(東京・中央区東日本橋2)
 主催:幸せ経済社会研究所
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.ishes.org/news/2019/inws_id002644.html

○ 琴平メイ ハープライブ
 日時:6月11日(火)18:30~19:00
 場所:銀座イタリー亭(東京・中央区銀座1)
 主催:琴平メイ音楽事務所
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.may5.tokyo/ 

○ 脱成長ミーティング 第18回公開研究会
 日時:6月16日(日)14:00~
 講師:森千香子さん(社会学者・一橋大学)
 場所:ピープルズ・プラン研究所(地下鉄「江戸川橋」下車」)
 主催:脱成長ミーティング
 (詳細、お問合せ先等↓) http://umininaru.raindrop.jp/datsuseichou/tuo_cheng_zhangmitingu/di18hui_kai_cui_jiang_zuo.html 

────────────────────
*舞麗児忽々の今号のコツコツ小咄。
「日本にベニバナをもたらしたのは、戦後のGHQです」
「そうなんですか」
「占領(染料)軍ですから」(注:ウソです。)

注:コツコツ小咄(まとめ)は拙ウェブサイトにも掲載してあります。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号 No.170は6月17日(月)[和暦 皐月十五日]の配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
  いつもありがとうございます。
  http://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。

────────────────────
◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
 発行者:中田哲也
  https://archives.mag2.com/0001579997/
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
  http://food-mileage.jp/
 ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
  http://food-mileage.jp/category/blog/
 メルマガ「フード・マイレージ資料室 通信」(バックナンバー)
  http://food-mileage.jp/category/mm/
 発行システム:『まぐまぐ!』
  http://www.mag2.com/