【メルマガ】F.M.Letter No.174

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.174◇
 2019年8月15日(木)[和暦 文月十五日]発行
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◆ F.M.豆知識  戦時下の米穀需給実績
◆ O.カレント  2018年度の食料自給率
◆ ほんのさわり 吉田 裕『日本軍兵士』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 ようやく猛暑も一段落の気配ですが、相次いで大型台風が接近。大きな被害が発生しないことを祈ります。鎮魂の季節でもある8月、昨年までに引き続き「戦争と食糧」について考えてみました。
 時の流れを体感するため、本メルマガは和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/mame/

-戦時下の米穀需給実績-

第二次世界大戦は、国民生活に食糧不足という深刻な影響を及ぼしました。
 リンク先の図174は、1939(昭和14)年度から45(昭和20)年度にかけての米穀(米を始めとした穀物)の需給実績を表したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2019/08/174_daijobu.pdf

 なお、年度は米穀年度(米の収穫をもとに立てた年度で、前年の11月からその年の10月まで)で表されています。
 横軸から上が供給量、下が需要量で、需給はほぼバランスしていることが分かります。

 1939年度における供給量についてみると、前年産米の収穫量が985万トン(ここでは前年度内に消費された量を除き、当該年度の新米の消費量を含んでいます。)であるのに対して、輸移入量が147万トンと、供給の1割強は輸移入に依存していたことが分かります。
 ちなみに輸移入米の約6割は朝鮮半島から、約4割は台湾からの移入米でした。
 輸移入米は1942年には240万トンにまで増加しますが、その後は激減します。これは、戦況の悪化に伴って海外からの輸送に支障が生じてきたことを表しています(多くの民間商船と乗組員が失われました)。
 一方で需要量については大きな変化はなく、輸移入の減少分を補うために1943年度頃から大きく増加してきたのが「代替食糧」です。これは国内産麦、満州産雑穀等です。
 さらに1945年には、空襲など非常時用に備蓄されていた防空備蓄米22万トンも放出されています。

 これらのほか、食糧管理法に基づく供出促進、配給量の削減による消費抑制策等により米穀の需給安定が図られたものの、戦後は深刻な食糧不足を招く事態に至ったのです。

[出典等]
 海野洋『食糧も大丈夫也』(2016.5、農林統計出版)p.159の資料5-1を基に筆者作成。
 http://shop.ruralnet.or.jp/b_no=05_89732343/

◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/pr/

-2018年度の食料自給率について-

去る8月6日(火)、農林水産省は2018(平成30)年度の食料自給率を公表しました。  
 食料自給率とは、国内における食料消費をどの程度国内生産で賄えているかを示す指標として、毎年公表されています。

 今回の発表によると、2018年度のカロリーベース自給率は、ほぼ自給している米の消費が減少する中で主食用米の国内生産量が前年並みとなった一方で、天候不順のため小麦、大豆の国内生産量が大きく減少したこと等により、前年度から1ポイント低下し、37%となりました。
 また、生産額ベースでは、野菜や鶏卵等の価格が下落したため国内生産額が減少した一方、魚介類の輸出増加等により国内消費仕向額も減少したことから、前年度と同じ66%となりました。

 食料自給率については、このように短期的な天候要因等で変動するため1ポイント程度の増減に大きな意味はないともいえますが、先進国の中で最低の水準にあること、食料・農業・農村基本計画において目標が設定されていること(2025年度にカロリーベース45%、生産額ベース73%)等から、国産品の消費拡大や海外市場の開拓を通じて食料自給率の向上を図っていく必要があります。

 なお、今年も同時に「食料自給力指標」も公表されています。
 これは、国内生産のみでどれだけの食料を最大限生産することが可能かを食生活パターン毎に試算した指標ですが、2018年度においては、農地面積の減少等により全てのパターンで微減となっており、潜在生産力が低下している状況がうかがえます。

[参考]
 平成30年度食料自給率・食料自給力指標について(農林水産省ホームページ)
 http://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/anpo/190806.html

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/br/

-吉田 裕『日本軍兵士』(中公新書、2017.12)-
 http://www.chuko.co.jp/shinsho/2017/12/102465.html

本書は、日本だけでも310万人(軍人・軍属230万人、民間人80万人)が戦没したアジア・太平洋戦争について、「兵士の目線」で「兵士の立ち位置」から、凄惨な戦場の現実(死の現場)を直視することを試みたものです。

 まず、戦病死者が非常に多いことが指摘されています。
 戦場における死の最大の原因は、戦闘による死(戦死)ではなく、餓死を中心とした戦病死でした。戦況の悪化(制海・制空権の喪失)に伴い補給路は寸断され、戦争末期には輸送された食糧の半分近くが前線に到達せずに失われたそうです。
 これら食糧不足や心身の疲労に加え、ストレスや恐怖等によって体内の調節機能が変調を来し、身体が生きることを拒否する「戦争栄養失調症」が蔓延していました。
 さらに飢餓が深刻になると、食糧強奪のために友軍を襲撃・殺害するような事件があったことも紹介されています。

 また、日本軍では捕虜になることが事実上禁じられていたことから、多数の傷病兵を軍医や衛生兵が殺害(「処置」)する、あるいは彼らに自決を強要することが常態化していたことも明らかにされています。
 例えば1944年のインパール作戦では、退却する部隊の最後尾に落伍者を収容する「後尾収容班」が設けられましたが、その実態は、落伍者に肩を貸すどころか、自決を勧告・強要するのが役割だったとのこと。

 さらに著者は、兵士たちの無残な死の背景には、帝国陸海軍の構造的な要因(短期決戦重視、作戦至上主義(補給等の軽視)、極端な精神主義等)があったこと、さらには明治憲法体制そのものの根本的欠陥(統帥権の独立、多元的・分権的政治システム等)も指摘しています。

 著者は「約230万人といわれる日本軍将兵の死は、実にさまざまな形での無残な死の集積だった」とし、その一つひとつの死に対するこだわりを失ってはならないと訴えています。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
 ▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 (ブログも夏休みでした~)

 ▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
  既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問合せ下さい。
 ○ 47都道府県レストラン・箕と環(MINO TO WA)オープン
 日時:8月15日(木)17:00~
 場所:東京・中央区日本橋本石町4
 主催:箕と環(MINO TO WA)
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://minotowa.therestaurant.jp/

○ 奥沢ブッククラブ第47回
  小松左京『地には平和を』
 日時:8月19日(月)
 場所:シェア奥沢(東京・世田谷区奥沢2)
 主催:奥沢ブッククラブ
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/499868187448583/

○ 共奏キッチン♪@自由が丘シェア奥沢 #94
 日時:8月21日(水)17:00~21:00
 場所:シェア奥沢(東京・世田谷区奥沢2)
 主催:共奏キッチン♪
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/456493748518679/

○ 脱成長ミーティング 第19回公開研究会
  脱原発と地域づくり(原子力市民委員会・大沼淳一さん)
 日時:8月25日(日)14:00~17:00
 場所:ピープルズ・プラン研究所(東京・文京区関口1)
 主催:脱成長ミーティング
 (詳細、お問合せ先等↓)
 http://umininaru.raindrop.jp/datsuseichou/tuo_cheng_zhangmitingu/di19hui_kai_cui_jiang_zuo.html

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*舞麗児忽々の今号のコツコツ小咄。
「手をこまねいてたら、戦争の記憶は風化してしまうよ」
「警鐘(継承)が必要ですね」

注:コツコツ小咄(まとめ)は拙ウェブサイトにも掲載してあります。
 http://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号 No.175は8月30日(金)[和暦 葉月朔日]の配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
 いつもありがとうございます。
 http://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
 発行者:中田哲也
  https://archives.mag2.com/0001579997/
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