◇フード・マイレージ資料室 通信 No.286◇
2024年2月24日(土)[和暦 睦月十五日]
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◆ F.M.豆知識 増加する加工・調理食品への支出額
◆ O.カレント 峯岸祐高さん((株)Corot代表)
◆ ほんのさわり 平賀 緑『食べものから学ぶ現代社会』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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ロシアによるウクライナ侵攻から丸2年。欧米の「支援疲れ」が指摘されるなか、一刻も早い停戦の実現を望みます。
今号は、資本主義社会の中での食べものや地域農業について、ささやかながら考えてみました。本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
−増加する加工・調理食品への支出額−
【ポイント】
消費者は、ライフスタイルや嗜好の変化を反映して一貫して加工食品や外食への支出を増やしていますが、供給側の企業活動も影響しているとの指摘もあります。
18世紀半ばの産業革命以来大きく発展した資本主義は、食料や農業にも大きな影響を及ぼしてきました。消費者の食料消費のかたちも大きく変化しています。
家計における食料消費の長期的な推移を示したものが、リンク先の図286です。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/02/286_kakei.pdf
これによると、1963年の時点では1世帯当たり年間20万円弱だった食料消費支出額は、高い経済成長率を反映して大きく増加し、ピークの1993年には120万円弱と5.5倍にまで増加しました。なお、その後は経済の停滞、世帯員数の減少もあって、ピーク時の7割弱にまで減少しています。
この食料消費支出額の推移を生鮮品、加工・調理食品、外食別の構成割合をみると、1963年の時点では51%を占めていた生鮮食品は一貫して低下し、2023年には27%となっています。一方、加工・調理食品はから42%から56%へと一貫して上昇しており、また、外食も7%から17%へと上昇しています。ちなみに最近は、コロナ禍の影響が明らかに見て取れます。
このように、家計調査からみても「食の外部化」が進行しています。つまり、家庭内で行っていた調理を家庭外(食品メーカーやスーパーなど)に依存する、あるいは食事そのものを家庭外で行う機会が増えたのです。
これは、「食の洋風化」の傾向と同様、基本的には消費者のライフスタイルや嗜好の変化に基づくものと考えられますが、「ほんのさわり」欄で紹介するように、平賀緑さんは供給側(企業による大量生産・販売)の影響もあると指摘しています。
データの出典:
総務省「家計調査」(時系列データ)
https://www.stat.go.jp/data/kakei/longtime/index3.html
https://www.stat.go.jp/data/kakei/longtime/index.html#time
◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
−峯岸祐高さん((株)Corot(コロット)代表、埼玉・所沢市)−
【ポイント】
生産・流通システムを資本主義経済の中にマッチングさせ、地域の農家と農業を守る画期的な取組みが行われています。
資本主義経済の進展に伴って第二、三次産業のウェイトが高まる中、第一次産業(農林水産業)の維持・発展のためには、加工業やサービス業との連携が不可欠となっています。
このようななか、地域に根差した生産・流通システムを、先端技術も活用しつつ資本主義経済の中に親和的にマッチングさせようとする画期的な取組みが、埼玉・所沢で行われています。
取組みの主体である(株)Corot代表の峯岸祐高さんは1981年生まれ。
27歳の時、5反の畑とともに古民家を親族から引き継ぎいだ当初は、自ら就農しようと先進農家の下で研修されたそうですが、後に民宿と体験農園に方向転換。
これを契機に、食や農に関わる幅広い事業に積極的に取り組んで来られています。
流通関係では、約200軒の生産者と契約して集荷した野菜等をレストランなど200軒に販売。レストランも開業し、契約農家の食材等を提供するとともに加工の拠点としても活用されているそうです。
さらにイベントやマルシェ、メディアサイトの運営等のコーディネート事業にも取り組んでおられ、例えば西武鉄道の駅構内での無人販売の取組み (EAT LOCAL マルシェ)は、近く本実施が予定されています。
峯岸さんは
「このままでは高齢化の進行や耕作放棄地の増加などで、地元の野菜がなくなりかねない。地元農業は災害時等のライフラインでもある。新規就農者の支援を含めて、これ以上農家が減らないように、できることは何でもやっていきたい」と力強く語っておられます。
参考
Corot ホームページ
https://www.corot.bz/
(拙ブログより)株式会社 Corot の挑戦(埼玉・所沢市)
https://food-mileage.jp/2024/02/16/blog-489/
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
−平賀 緑『食べものから学ぶ現代社会−私たちを動かす資本主義のカラクリ』(2024.1、岩波ジュニア新書)−
https://www.iwanami.co.jp/book/b638607.html
【ポイント】
まずは資本主義のカラクリを知り、その逆を、自分から主体的に行くことで、人も自然も壊さない経済を草の根的に広げていけると著者は訴えています。
著者はロンドン市立大学で修士(食料栄養政策)、京都大学で博士(経済学)を取得し、現在は京都橘大学(経済学)准教授。
同じ岩波ジュニア新書として上梓された前著が、主に1970年代までの「資本主義的食料システム」の形成過程に主眼が置かれていたのに対して、本書では、現代社会を動かしている資本主義経済のカラクリが詳しく解き明かされています。
資本主義経済のもとで、生命の糧であるはずの食べものは大企業が儲けるための「商品」に変貌し、「食の洋風化」等が誘導されました。
「自由」貿易とは、国境を越えてビジネスを展開する大企業にとっての自由のことであり、この背景には規制緩和政策やタックスヘイブンがあること。また、現代社会は全てが金融化されており、食料の国際価格の指標であるシカゴ相場も9割方は「投機マネー」が動かし、ギャンブルのようなマネーゲームが途上国等を食料危機に陥れていること。そして、そのマネーゲームには投資信託等を通じて私たちも加担していること。
さらには、最も基礎的な生産・生存手段であるはずの農地までもが、グローバル企業によって買収されていること。
このように、気候危機、戦争、格差の拡大などがすべて資本主義のカラクリの当然の帰結であるとすれば、資本主義体制を覆さない限り、救いはないかのようです。
しかし、著者は絶望していません。
まずはカラクリを知り、その逆を行けばいい。まずは自分から、小さく分散的でも、主体的に考え、動き始めること。それがやがて他の人とも繋がって、共に考え動く「コモン」となり、人も自然も壊さない経済を草の根的に広げていけると著者は主張します。
例えば、先端技術と違って金儲けの対象にはならないものの、生命の糧を得るための「適正技術」やノウハウは、すでに地域に十分に存在するそうです。
実はこの結論は前著と大きく変わるものではなく、前著を読んだ時には、歴史的な分析からの一足飛びの主張に、正直、違和感を覚えたものです。しかし今回は、資本主義の現状について、幅広い具体的なデータも引用しつつ解明した上での論理展開であることから、大いに納得できました。
また、本書が強い説得力を持つのは、著者自身が研究者という立場にとどまらず、香港の国際金融センターで働いたり、京都・丹波の農村で畑を耕す生活をしたり、現在も幅広い市民活動に参加されているという体験に基づいているためと思われます。
絶望せず、自分にできることがあるかも知れない、と思わせてくれる好著です。ぜひ多くの方に読んで頂きたいと思います。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 広島での林間放牧酪農への挑戦(第199回霞ヶ関ばたけ)[2/12]
https://food-mileage.jp/2024/02/12/blog-488/
○ 株式会社 Corot の挑戦(埼玉・所沢市)[2/16]
https://food-mileage.jp/2024/02/16/blog-489/
○ 吉田俊道さん出版記念講演会@高田馬場[2/18]
https://food-mileage.jp/2024/02/18/blog-490/
○ 中江兆民『三酔人経綸問答』(シン・哲学カフェ)[2/20]
https://food-mileage.jp/2024/02/20/blog-491/
○ 東京都農業会議・松澤龍人さんの思い[2/23]
https://food-mileage.jp/2024/02/23/blog-492/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
○ オンライン被ばく学習会
青木美希さん「日本はなぜ原発を止められないのか」
日時:2月27日(火)19:00〜22:00
場所:オンライン
主催:放射線被ばくを学習する会
(詳細、問合せ等↓)
http://anti-hibaku.cocolog-nifty.com/blog/2024/02/post-ae0893.html
〇 今夜はご機嫌@銀座で農業 3月
日時:3月6日(水)18:30〜20:00
場所:中央区環境情報センター(東京・京橋3)
主催:今夜はご機嫌@銀座で農業
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/395615766202332
○ パレスチナのちいさないとなみ
講師:高橋美香さん(写真家)
日時:3月10日(日)13:30〜15:30
場所:くにたちスクール(東京・国立市中1)
主催:NHK学園オープンスクール
(詳細、問合せ等↓)
https://culture.n-gaku.jp/course/5861
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
丸2年が経過して戦況はロシア有利に傾いているとの報道も。早く停戦が実現するまで、もうしばらくコツコツはお休みです。過去(2年前)のアーカイブは以下に掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.287は3月10日(日)[和暦 如月朔日]に配信予定です。
正確でより役に立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(本メールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』(今年は北斎手帳)を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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バックナンバー
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ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
https://food-mileage.jp/
ブログ「新・伏臥慢録〜フード・マイレージ資料室から〜」
https://food-mileage.jp/category/blog/