【メルマガ】F.M.Letter No.289-pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.289◇
  2024年4月9日(火)[和暦 弥生朔日]
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◆ F.M.豆知識  農村地域の持つ役割に対する意識
◆ O.カレント  つなぐ棚田遺産
◆ ほんのさわり 真田純子『風景をつくるごはん』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 東京では半月遅れで開花したソメイヨシノも、今日の風雨でいっせいに散り始めました。今号は、都市と農村(特に風景)についての特集です。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−農村地域の持つ役割に対する意識−

【ポイント】
 大都市の居住者は、食料供給や良好な景観形成等の農村の役割は高く評価しているものの、積極的に過疎地域に行って協力しようとする意識は低いものとなっています。

内閣府では、テーマを変えつつ「農山漁村に関する世論調査」を定期的に実施しています。2021年6月には、農村地域の持つ役割や、都市地域と農山漁村地域の交流についての意識についての調査が行われました。
 調査対象は全国18歳以上の者3,000人で、有効回収数は1,655人(55.2%)です。
 リンク先の図289は、農村地域の持つ役割等に対する回答を都市階級別に示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/04/289_yakuwari.pdf

これによると、農村地域の持つ役割の中でどのようなものが特に重要と思うか聞いたところ、「食料を生産する場としての役割」を挙げた者の割合が86.5%と最も高く、以下、「多くの生物が生息できる環境の保全や良好な景観を形成する役割」(63.9%)、「地域の人々が働き、かつ生活する場としての役割」(60.7%)、「水資源を貯え、土砂崩れや洪水などの災害を防止する役割」(45.3%)等となっています(複数回答、棒グラフ)。
 また、これを都市規模別に見ると、大都市(特に東京都区部)の居住者で総じて高くなっています。

一方、折れ線グラフは、高齢化などにより活力が低下した農村地域について「積極的にそのような地域(集落)に行って協力したい」と答えた者の割合です。全体が4.6%となっているのに対して、東京都区部では1.8%と極めて低くなっています。

 大都市(東京都区部)は農村地域から遠く訪れる機会が乏しいという事情はあるかも知れませんが、大都市の居住者は食料供給や景観形成に果たしている農村地域の役割を認識しながら(受益しつつ)、積極的に協力したいという意識は低いという状況が伺えます。

[データの出典]
 内閣府「農山漁村に関する世論調査」(2021年6月調査)から作成。
 https://survey.gov-online.go.jp/r03/r03-nousan/

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−つなぐ棚田遺産−

【ポイント】
 「つなぐ棚田遺産」とは、代表的な農村景観ともいえる棚田を保全・継承していくための取組みで、現在、全国で271か所が認定されています。

山や谷間の傾斜地に階段状に作られた棚田は、美しい農村景観の代表の一つです。日本の棚田の多くは長い歴史を有し、国民への食料供給にとどまらず、国土の保全、水源の涵養、生物多様性の保全、良好な景観の形成、伝統文化の継承等に大きな役割を果たしてきました。
 1999年、この国民的財産を保全・継承していくために「日本の棚田百選」が認定されましたが、その後20年以上が経過し、高齢化等により荒廃の危機に直面している棚田も多くなっています。一方、2019年には議員立法で「棚田地域振興法」が成立・施行されています。

 このような状況の中、改めて優良な棚田を認定する取組み(「つなぐ棚田遺産〜ふるさとの誇りを未来へ〜(ポスト棚田百選)」)が2021年から行われています。
 現在、全国で271の「つなぐ棚田遺産」が認定されていますので、機会があればぜひ訪ねてみて下さい。

なお、「世界農業遺産」もそうですが、「遺産」(heritageの和訳)という用語には個人的には違和感があります。ピラミッドや法隆寺といった「ユネスコ世界遺産」とは異なり、「農業遺産」も「棚田遺産」も、地域の方々の生業と暮らしがあることで維持・保全され、将来の世代に向けても継承されていく動的なシステムです。
 「遺産」に代わる、より適切な用語があれば農林水産省に提言してみたいと思っているのですが、読者の皆様にいいアイデアがあればご教示頂ければ幸いです。

[参考]農林水産省ホームページ「つなぐ棚田遺産」
 https://www.maff.go.jp/j/nousin/tanada/tanadasen.html

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−真田純子『風景をつくるごはん−都市と農村の真に幸せな関係とは』(2023.10、農山漁村文化協会)−
 https://toretate.nbkbooks.com/9784540231247/

【ポイント】
 都市と農村の不平等な関係を解消するためには、環境や風景に配慮した農産物が生産され、それらを消費者が積極的に選択すること(風景をつくるごはんを食べること)が必要としています。

著者は1974年広島・福山市生まれの東京工業大学教授(景観工学)。2013年には農地の石積み技術を継承するため「石積み学校」を立ち上げられました。
 本書のペースとなっているのは、徳島大学准教授時代の徳島県内各地での様々な経験です。
 実際の農村風景を見た時にはハウスや荒廃農地があって「あまり美しくないな」と思ったこと。ある農家の裏にある段畠に移動するだけで息が上がり、中山間地農業の作業効率の悪さを体験したこと。
 また、あるシイタケ農家の「自分で値段がつけられないから祈るしかない」との言葉に、なぜ農村の人たちはこんなに頑張らなくてはならないのかと怒りに似た感情を抱きます。社会システムが全体として効率性を重視してきた中で、現在の都市と農村は「選ぶ−選ばれる」という、消費主導の不平等な関係にあり、農村の価値は都市に「搾取」されていると感じたのです。

そこでまず著者は、意識的に地元のものを食べることを心掛けました。この「小さな行動」が著者に大きな変化をもたらします。日々の食事のメニューを決めるのは土地と季節であることを知ると同時に、自分のごはん(食材の選択)がまわりまわって田舎の風景(農業、環境)をつくっていることに気付くのです。

一方で、ブランド化や六次産業化の取組みには環境や風景の視点が入っていないことに批判的です。EUでは農業政策の中に環境や風景の保全がしっかりと位置付けられており、しかもそれは過去へのノスタルジーではなく、これからの社会にとっての価値(持続可能な暮らし)に目が向いているものと評価しています。

しかし、いくら生産者が環境や風景に根差した農産物を生産しても、消費者がこれらの価値を理解しなければ「社会システム」は変わりません。著者は消費者に対しては、1週間のうちの1食からでも、環境や社会のことを考えながら「風景をつくるごはん」を食べようと訴えています。

さらには著者自身もそうであったように、特に大都市の居住者は農村に足を運び、人々の暮らしや農作業を体験してみることが効果的かもしれません。

[参考](一社)石積み学校
 https://ishizumischool.localinfo.jp/

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ 第5回 東雲会(千葉大)、拙ブログ500回(?)[3/26]
 https://food-mileage.jp/2024/03/26/blog-500/

○ Cease Fireシンポ5「停戦をためらう構造について」[4/4]
 https://food-mileage.jp/2024/04/04/blog-501/

▼ 筆者が説明者となるセミナーです。
 ○ 第三土曜の会 例会
 「フード・マイレージから食と農を考える」
 日時:4月20日(土)13:00〜17:00
 場所:文京区勤労福祉会館(東京・本駒込4)及びオンライン
 主催:第三土曜の会(JA全国組織有志等による自主的な勉強会)

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

○ ネーネーズ 3daysライブ
 日時:4月22日(月)〜24日(水)17:30〜19:30
 場所:居酒や こだま(東京・小岩)
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.izakayakodama.com/live-schedule/2024/04/22/%e3%83%8d%e3%83%bc%e3%83%8d%e3%83%bc%e3%82%ba%e3%80%803days%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%83%96/

○ 今夜はご機嫌@銀座で農業
 日時:4月25日(木)18:30〜19:45
 場所:中央区環境情報センター(東京・京橋)
 主催:今夜はご機嫌@銀座で農業
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/events/7316685851713021

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
 今すぐ停戦を! 過去のアーカイブは以下に掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.290は4月23日(日)[和暦 弥生十五日]に配信予定です。
 正確でより役に立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』(今年は北斎手帳)を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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