−末松広行『日本の食料安全保障−食料安保政策の中心にいた元事務次官が伝えたいこと』(2023/4、育鵬社)−
https://ikuhosha.co.jp/book/ikh093143.html
【ポイント】
食料安全保障施策の「現場」にいた元農水省行政官が、消費者を含む関係者に向けて忌憚のない意見(私見)を述べるとともに、傾聴すべき提言を行っています。
著者は1959年埼玉県生まれ。2008年に新設された農林水産省・食料安全保障課の初代課長、後には農林水産事務次官を歴任するなど、まさに日本の食料安全保障施策の立案と運用の「現場」の中心にいた元行政官です。
本書では、その経験を踏まえて、日本の食料安全保障について忌憚のない意見(私見)が述べられています。
食料安全保障に関する議論については、著者はまず「危機をあおり過ぎること」も「そこにある危機を見ないふりをすること」も良くないという、バランスあるスタンスをとります。
その上で、現在も多くの学者や評論家、マスコミ等によって行われている様々な議論や主張については、「極端な比喩や単純な一つの見方で極端な主張をする論者が相変わらず多い」とし、内容についても「財源をどうするのか」「ただお金を配って農業関係者は喜ぶのか」「独断的に政策を実施することがいいのか」等の疑問があるとのこと。ちなみに「農水省が予算を拡大するために食料自給率のことを言い出した」との主張については、省内では聞いたことも議論したこともないと証言しています。
一方で、「行政から離れた目で大局的な観点から厳しい指摘ができない」という自らの弱点の可能性についても、正直に吐露しています。
基本法の制定時点(1998年)においては、食料自給率を政策目標とすることについて賛否両論があったことも紹介されています。
反対意見の主なものは、行政が国民の食生活に積極的に介入・コントロールすることはできない(すべきでない)というものでした。それが最終的には「自給率とは関係者のそれぞれが問題意識を持って主体的に取り組んだことの成果」であるとし、「国民参加型の生産・消費の指針としては意義がある」と整理され、法に位置付けられたのです。
つまり、もともと食料自給率の目標とは、「上から」政策的に達成できるものではなく、消費者を含む関係者の主体的な努力と実践が前提となっているのです。
また、食料自給率が下がってきた最大の要因は米の消費が減ってきたからであるとし、日本の水田を守ることが食料安全保障の「要になる」としています。さらに、確保しなければならないカロリーを分母として固定する「必要カロリーベース自給率」という指標の導入を提案しています。
「しょせんは農水省の元役人が書いたもの」といった色眼鏡を通してみる人もいるかもしれませんが、食べものや食料自給率について関心のある多くの方に読んで頂きたい本です。
出典:
F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
No.298、2024年8月18日(日)[和暦 文月十五日]
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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