◇フード・マイレージ資料室 通信 No.315◇
2025年4月28日(月)[和暦 卯月朔日]
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◆ F.M.豆知識 消費者の四類型
◆ O.カレント 食料・農業・農村基本法等における「消費者の役割」
◆ ほんのさわり 中野孝次『清貧の思想』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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カレンダーはGW、今年も後半は福島・喜多方市山都に堰浚い(せきさらい)ボランティアに伺う予定です。今号は「消費者」について考えてみました。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)にコツコツと配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
-消費者の四類型-
【ポイント】
農の価値を理解し、それに対価を支払う「積極型」消費者が増加していくことが期待されます。

ここ何号か続けて、農業問題は消費者の問題であること、食料/農業問題の解決のカギは消費者の選択と実践にあることについて説明してきましたが、それでは現実の日本の消費者はどのような状態にあるのでしょうか。
リンク先の図315は、徳野貞雄氏(現 熊本大学名誉教授)が福岡市のアンケート調査を基に、消費者を4つの類型に分類したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2025/04/315_4bunrui.pdf
縦軸は「農」そのものの価値(食料生産だけはなく環境や地域社会の維持・保全の面も含む。)への理解が深いか浅いか、横軸は「農」の価値に対して対価を支払うか否かを示しています。
右上が「積極的」消費者です。農の価値への理解が高く対価も支払い、時には援農にも行くような層ですが、これらは全体の5.5%に過ぎません。右下は、安全性等について対価は支払うものの農への価値への理解は高くはない「健康志向型」消費者で、16.6%を占めています。
これらに対して最も多いのが左上の「分裂型」です。アンケート等では安全性や地産地消が重要と回答しつつ、実際にスーパー等ではもっぱら安価な外国産食品を購入するといった、意識と行動が一致していない消費者層が52.4%と過半数を占めているのです。
なお、左下の「無関心層」も23%おり、徳野先生は「どうしようもない消費者」とも呼んでいます。
このような現状にある日本の消費者について、右上の「積極型」が増加していくことが期待されます。
[データの出典]
徳野貞雄(現 熊本大学名誉教授)監修「福岡市民の食生活に関するアンケート」(2003年)をもとに作成。なお、図は佐藤 弘氏(元西日本新聞社、小農学会事務局)が作図したものを参考にした。
[参考]
徳野貞雄『農村(ムラ)の幸せ、都会(マチ)の幸せ』(2007年、NHK生活人新書)
https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000882112007.html
◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
-食料・農業・農村基本法等における「消費者の役割」-
【ポイント】
昨年改正された食料・農業・農村基本法では「消費者の役割」に関する条文が拡充されており、同基本計画においても記述が拡充されています。

昨(2024)年6月に公布・施行された改正 食料・農業・農村基本法においては「消費者の役割」の条文が拡充されました。
改正前は「消費者は、食料、農業及び農村に関する理解を深め、食料の消費生活の向上に積極的な役割を果たすものとする」(第12条)とされていたのが、改正後は「消費者は、食料、農業及び農村に関する理解を深めるとともに、食料の消費に際し、環境への負荷の低減に資する物その他の食料の持続的な供給に資する物の選択に努めることによって、食料の持続的な供給に寄与しつつ、食料の消費生活の向上に積極的な役割を果たすものとする」(第14条)とされているのです。
つまり、これまで消費者に対しては「理解の増進」と「消費生活の向上」のみが期待されていたのに対して、改正後は、生産(食料の持続的な供給)そのものに寄与するという、より幅広い役割があることが規定されたのです。
これを受けて本(2025)年4月に閣議決定された食料・農業・農村基本計画においては、「食料の持続的な供給を確保するためには、消費者、国民が、生産などの実態を理解し、日々の購買行動によって、支えることが重要」であるとされ、「食料・農業・農村に関する理解を深めるだけでなく、食料の持続的な供給に寄与する『行動変容』につなげるよう、効果的な消費者施策を推進」する旨が規定されています。また、具体的な施策としては食育の推進、食文化の保護・継承等が掲げられています。
これらを「絵に描いた餅」にしないためには、私たち消費者一人ひとりが食料の生産現場等についての理解を深めるとともに、食料の持続的で安定的な供給を確保していくために行動を変容させていくことが求めらています。
[参考]
農林水産所HP
「食料・農業・農村基本法」(2024年5月改正法施行)
https://www.maff.go.jp/j//basiclaw/
「食料・農業・農村基本計画」(2020年4月閣議決定)
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
-中野幸次『清貧の思想』(1996年11月、文春文庫)-
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167523039
【ポイント】
著者は、「消費者」とは「人間侮蔑的な言葉」であるとし、「何が必要であって何が必要でないかを検討し社会の仕組み全体を変えねばならぬ時に来ている」としています。

著者は1925年千葉県生まれの作家、ドイツ文学評論家。バブルが崩壊しつつある1992年に最初に世に問われた本書はベストセラーになり、「清貧」という言葉は流行語にもなりました。
技術と生産性に秀でた日本の工業製品が世界に大量に輸出されるなか(現在からは隔世の感がありますが)、著者は旅行先で、しばしば日本人は「金儲け以外に関心がないエゴイスト」であると非難されたとのこと。その度、筆者は、本阿弥光悦や吉田兼好の言葉を引用しつつ、日本には伝統的に「清貧」という美しい思想があると反論したそうです。清貧の思想とは、所有の欲望から自己を解放することで、心を自由にし、豊かなものにするというものでした。
注目されている環境保護やエコロジー、シンプル・ライフ等も日本人にとっては伝統的に身に着いた当たり前のことであり、「清貧の思想」は新しい文明社会の原理となりうるとしています。
「消費者」についても記述があります。経済成長のなかで「われわれはただの人間ではなく消費者という名で呼ばれるようになっていった」とあり、消費者とは「妙な」「人間侮蔑的な言葉」と断じています。
そして「われわれはもう一度出発点に戻って、人間には何が必要であって何が必要でないかを検討し、それに応じて社会の仕組み全体を変えねばならぬ時に来ているように思う」と結んでいるのです。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
〇 堀内正弘先生 退職展(多摩美術大学、東京・八王子)[4/1]
https://food-mileage.jp/2025/04/14/blog-570/
〇 Present Tree in くまもと山都2025[4/17]
https://food-mileage.jp/2025/04/17/blog-571/
〇 大好きなラジオなんですけど・・・[4/18]
https://food-mileage.jp/2025/04/18/blog-572/
〇 あすか倶楽部 第251回定例会[4/22]
https://food-mileage.jp/2025/04/22/blog-573/
〇 2025(令和7)年の4月[4/26]
https://food-mileage.jp/2025/04/26/blog-574/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
〇 元木上堰春の浚い/雑木林再生ボランティア
日時:5月4日(日)~5日(月)
場所:福島・喜多方市山都
主催: 本木・早稲谷 堰と里山を守る会
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/1170803690932869/
〇 「プレゼントツリー笛吹芦川」2025植樹イベント
日時:5月11日(日)9:15~16:00
場所:山梨・笛吹市
主催:NPO法人環境リレーションズ研究所
(詳細、問合せ等↓)
https://presenttree.jp/get-involved/index.php#sec03
〇 ふくしまオーガニックコットンボランティアツアー2025【種まき編】
日時:5月18日(日)、7:45東京駅集合
場所:福島・いわき市
主催:(有)有限会社リボーン
(詳細、問合せ等↓)
https://reborn-japan.com/domestic/14812
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* 米令寺忽々のコツコツ小咄
「かの二人の大統領は、空港行きのバスにでも乗せればいいよ」
「えっ、何てバス?」
「理不尽(リムジン)バス」
ディールのための一方的な関税政策、侵略相手国へのミサイル攻撃。いずれも理不尽この上ありません。
過去のアーカイブは以下に掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.316は5月12日(月)[和暦 卯月十五日]に配信予定です。
正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつも有難うございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F.M.Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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