【ブログ】トークイベント「写真で伝えるパレスチナのいとみ」(東京・神保町)

2025年5月15日(木)の夕刻は、東京・神保町へ。
 ブックハウスカフェ(カフェやギャラリーが併設された素敵な書店です)では、「パレスチナの猫」写真展が開催中です。

写真家・高橋美香さん、フォトジャーナリスト・安田菜津紀さんがパレスチナで出会った猫たちの写真展。
 想像もできないほど厳しい戦争状態下でも、猫たちはたくましく生きています。時にはユーモラスな姿も見せてくれます。日本にいる猫と変りはありません。
 お二人の著作なども展示されていました。

この日18時から、美香さんと安田さんによるトークイベント「写真で伝えるパレスチナのいとみ」が開催されました。
 会場には幅広い年齢層の男女が40人ほど。他にオンライン視聴の方もおられたようです。

主催者の方の挨拶と紹介に続き、お二人が自ら現地で撮影された写真等を映写しながらトークが始まりました(文責は全て中田にあります)。

安田さん
 「パレスチナにはとにかく猫が多い。パレスチナへの関心を持ってもらう間口を広げるためにも、猫の写真展を全国で開催している。戦争によって動物たちも犠牲になっている」

 「今日(5月15日)は日本では沖縄復帰の日だが、パレスチナにとってはナクバ(大災厄)の日と言われている。1948年、パレスチナの建国により70万とも75万ともいわれるパレスチナの人々が故郷を追われた。はるか過去から現在まで、暴力が続いている」

 2018年、初めてガザを訪ねた時の美しい海と港の写真(現在は壊滅)、本年3月にオスカーも受賞した映画『ノー・アザー・ランド』にまつわるエピソードも紹介して下さいました。

美香さん
 「2023年末から24年の正月、24年末から今年の正月と、安田さんとともにパレスチナを訪問してきた。正直、ますます絶望感が強くなっている」

安田さん
 「訪問の最後に、サンバード(太陽鳥)がレモンの木に降りてきてくれた。鳥には壁も検問所も関係ない。人間だけが大地を引き裂いている」

続いて美香さんから、
 「始まる前に、2011年からお世話になっている居候先のお母さんに電話した。元気そうで安心はした」
 「ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区は4地区に区分されており、うち18%を占めるA地区は行政も治安も自治政府が管轄することとされているが、現在は意味を無くしている。
 北部にあるジェニン難民キャンプもA地区だが、日常茶飯事のように夜間にイスラエル軍の襲撃があり、道路や水道管などのインフラが破壊されている。追悼のためのモニュメントも撤去された。イスラエル自治政府は黙認あるいは協力しているのが現実」

 美香さんが滞在していた本年1月14日の夜にもドローンの爆撃があり、15歳の少年を含む6人の隣人たちが殺害されたそうです。その直後に撮影された動画には、パニックに陥った人々の叫び声が記録されていました。猫も犠牲になったそうです。
 美香さんは「西岸地区はガザのように報道もされないが、本当にしんどい、ひりひりした状態にある」と語ります。

美香さんがこれまでも何度も「居候」してきた親しい家族も、1月21日に避難を強いられたそうです。近所には美香さんも可愛いがっていた猫がいたそうですが、避難する時には必死で、思い出すこともできなかったとのこと。

 4か月たった現在も家族は避難生活が続いており、「これなら自宅に残っていた方がましだった」と洩らしているそうです。もっともその自宅がどのような状況にあるかは、全く分からないとのこと。

この日のトークショーのキーワードは「いとなみ」です。
 戦争によってパレスチナの人々の「いとなみ」(仕事)が失われ、金銭をめぐるトラブルも増えているとのこと。イスラエルの狙いはパレスチナを経済的に依存させることだそうです。

美香さんは
 「パレスチナは、知らなければ、単に怖いところ、酷いことが起きているところといったイメージかも知れないが、私たちと同じようにいとなみがある。仕事から帰れば家族がいる。そういう当たり前のことを知ってほしい」と話します。

 実は美香さんは、今回はあまり写真を撮れなかったそうです。
 「現在は人のいとなみも尊厳も奪われている。私が撮りたいのは、ドローンの爆撃があるような、こんな場面ではない」と、心情を吐露されました。

 一方、安田さんによると、このような困難な状況の中でもいとなみを続けようとする人々がいるとのこと。
 ファッションブランドを立ち上げたパレスチナの青年たちの「日本から多くの注文があり励まされている」との言葉を紹介しつつ、「よく、日本からは何もできないのではないかと相談されることがあるが、いとなみを遠くから支えていくことも大切」と話されました。

会場との質疑応答も行われました。
 お二人が活動を続けている心の支えは何か、との質問には、美香さんは笑いながら「やっぱりパレスチナの元気な猫の姿が見られることかな。自宅にいる猫(シロ君)によっても癒されている」と回答。
 安田さんは「現地の人にまた会いたいという気持ち、人のつながりが次の取材の力を下さっている」と答えられました。

続いて、長年にわたってパレスチナ支援活動を続けてきたという男性が、
 「これまでの支援活動は全て無駄だった。結果が出ていない。ガザについては、これ以上の人命が失われないためにも、人々はあきらめて出ていった方がいいのでは」等と意見を述べました。

 ここまでは、厳しく不条理な現実にありながらも(あるからこそ)、淡々と、時にはユーモアも交えながら進んできましたが、この発言を聞いた美香さんの表情が一変して固くなりました。
 (呼吸ができなくなりそうだと言いながら)「なぜ私たちが、ガザの人に出て行くべきなどと言えるのか。どこで住むかなどの自己決定権は、人間の尊厳そのもの。ガザの人たちの尊厳も守られなければならないのは当然のこと。私たちがやるべきことは、元々そこに住んでいた人が出ていかざるを得ない状態にされていることを止めることではないか」と、穏やかな口調ながら強く反論されました。
 安田さんは「能登の震災の時にも、不便なところでの復興はあきらめて移住すべきといった安易な意見もあったが、土地は存在の根幹そのもの。外から強制されるような不条理を止めるために国際社会はあるはず。あきらめないために取材を続けている」と話されました。

最後に安田さんがパレスチナ、福島、沖縄を取材したご新著『遺骨と祈り』を紹介して下さいました。
 「社会には差別構造があり、私たちは踏んでいる側、特権を享受している側に立っているということを忘れてはならない。助けてあげる、といった態度ではなく、何をしなけれはならないかを考えていきたい」と話されました。

終了後はサイン会も開催されました。安田さんのご新著にサインをして頂きました。
 これまで何度も美香さんの話を聞く機会がありましたが、聞くたびに、正直、心は沈みます。パレスチナの状況はさらに厳しいものになっていることが、実際に現地に取材に通っておられるお二人の言葉によって、実感を伴って伝わってきました。本当に貴重なトークショーでした。
 5月21日には、ジェニン訪問中の各国外交団にイスラエル軍が発砲したとの報道も。
 自分自身にとっては、まずはどのような実情にあるのか、歴史的な背景を含めて「知る」ことが、最低限の義務だと思っています。

(ご参考)
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
 https://food-mileage.jp/
 メルマガ「F.M.Letter-フード・マイレージ資料室通信」
 https://www.mag2.com/m/0001579997