農山村と都市の市民をつなぐ

 東京地方はここ数日、春を通り過ぎてあたかも初夏の陽気。
 暖かくなるのはいいのですが、花粉飛散がピークを迎え、加えて黄砂と微小粒子物質まで。
 株価はリーマンショック前の水準を回復。オリンピック招致運動や野球のWBCなど、世の中は何となくふわふわと盛り上がっている中、間もなく大震災から丸2年の3月11日を迎えます。
 その前日3月10日は、東京大空襲から68年目。
130309_1_convert_20130310013326.png 3月9日(土)も東京は快晴、気温もうなぎのぼり。
 真っ赤っかのテレビの花粉情報にひるみながらも、有楽町の東京国際フォーラムに向かいました。
 この日、一般財団法人CSOネットワーク主催のシンポジウム「地域資源循環型農村と都市の市民をつなぐ~実践から学ぶ、共生のあり方~」が開催されたのです。
 主催者のCSOネットワークは、公正で持続可能な社会の実現に向け、国内のCSO(Civil Society Organization,市民社会組織)とのネットワーク連携を通して、調査・研究、情報発信、提言活動等を行っている一般財団法人です。
130309_2_convert_20130310013354.png プログラムの最初は、大江正章さんコモンズ代表、ジャーナリスト)から「農山村と都市を結ぶ-地域と人の力」と題して基調講演(1)。
 「限界集落」という言葉があるが、限界にあるのは食料もエネルギーも農山村に依存している都市の方。「地域力・田舎力」が重要になっている。農山村が豊かになるためには、よそ者(Iターン)を受け止める出戻り(Uターン)の包容力が重要。
 また、生産者が再生産(プラスα)できる価格を保障するための日本版CSA、CSF(コミュニティが支える農業、漁業)が重要。原発事故で多くの消費者が提携から離れていったのが現実。これからは、逆に農業が地域を支えていく(Agriculture Supported Community)という視点も重要となってくるのでは。
 さらに、半農半X、田舎暮らし、ダウンシフト等の言葉が、特に若い人たちに共感を持って受け入れられている。第2の故郷を持つ、農家といい関係を創っていく、人と人との新しい豊かな関係性(地縁・血縁から知縁・結縁)を創っていくことが重要、等の話がありました。
 続いて基調講演(2)として、古沢広祐先生(國學院大学教授、「環境・持続社会」研究センター代表理事)から「自然循環の共生社会をつくる道すじ~農村と都市・市民をつなぐ実践と展望~」について。
 永年にわたり蓄えられてきた化石燃料を一瞬のうちに消費し尽くそうとしているのが現代文明。地球環境問題の深刻化、原発事故の続発など「巨大リスク社会」に。途上国の都市におけるスラム人口も急増。
 「食と農」の分野においても、生産拡大主義(ライフサイエンス重視)とエコロジー重視とのパラダイムのせめぎ合い(フード・ウォーズ)が起こっている。
 日本や東アジアにおいては、伝統的に循環型の農業や社会が形成されてきた。モノカルチャー型文明から、多様性を重視した文明に転換し、生産、加工、消費のローカル化という視点が重要、等の説明がありました。
 後半は、CSOネットワーク事務局長・理事の黒田かをりさんをコーディネーターに、「都市と農村をつなぐ持続型社会をともにつくるために」をテーマにしたパネルディスカッションです。
 まず、パネリストの岡田芳明さん(三菱地所(株)環境・CSR推進部長)から、2008年、CSR活動の一環として開始した「空と土プロジェクト」について紹介がありました。
130309_3_convert_20130310140048.png 地域交流を通じて都市と農山村が抱える社会的課題の解決を目指すため、NPO「えがおつなげて」と連携し、山梨県北杜市で耕作放棄地と間伐の取組を開始。
 社員・家族、丸の内エリアの就業者、マンション住人等を対象とした体験ツアー、酒米の生産と純米酒「丸の内」の開発・製造等に取り組んでいる内容等について、説明がありました。
 続いて、永年、福島・二本松市の中山間地で有機農業と地域づくりに取り組んできた菅野正寿さん(福島県有機農業ネットワーク理事長)からは、除染は進まず、賠償は不十分で、今も多くの住民が避難を強いられている中、住民同士の分断も発生し、精神的にも限界になっている人も多いという福島の現状について報告。
 再開された学校給食についても、保護者の間で意見の対立があるとのこと。
 4年前に就農した娘は3回にわたりホールボディカウンターによる検査を受けたが、放射能の影響はやはり心配。
 低線量であっても子ども達を守るために自主避難されている人たちの気持ちもわかる。一方で、農地を耕し続け
福島でがんばっている人もいる。両方とも大事。その狭間で苦しんでいる多くの人がいる。
 隣り合った農地でも、ひとつの田でも、場所によって汚染状態は異なる。きめ細かな実態調査が必要。
 大学の研究者等との分析を進める中で、深耕、堆肥やもみ殻の施用といった農民的な技術と対応が、放射性物質の作物への移行を抑える効果があることが明らかになってきた。
 福島だけの問題ではない。原発事故は未だ終息せず、多くの避難者を置き去りにして、オリンピックどころではないというのが正直な気持ち。日本のあり方を、今、転換しないでいつできるか、と強い口調で訴えられました。
 引き続き、大江さん、古沢先生も加わり、会場からの質疑も含めて討論。
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 大江さんからは、3.11で生き方や考え方が変わった人は、若い人たちを中心に多い。都市でも農業に携わることはできる。本当に強い農業とは持続可能で再生産可能な農業のことであり、大規模化では強い農業は実現できない、等の意見。
 古沢さんからは、環境問題はそれぞれの分野で深刻化しており、ともすれば専門家の議論がタコつぼ化していおり、個別対応ではなく全体としての抜本的な対応が必要な時期。食べること自体が、農業を通して環境とつながっている。経済的な面だけではない多面的な価値尺度が必要、等の発言。
 岡田さんからは、企業の価値そのものも変わりつつあり、社会的貢献が重視されているようになっている等の発言。
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 菅野さんからは、汚染されて改めて循環の重要さに気づかされた。多様性に基づく共生の社会を創っていくためにも、森林の除染とバイオ燃料化など多くの面で企業とも連携していきたい、との話。
 また、3月16日(土)にオープンする「ふくしまオルガン堂」について紹介がありました。
 カフェ、直売所だけではなく、東京と福島の交流の窓口(福島に訪問する際の相談等)、避難されている方たちの交流の場、イベント等による農の文化発信の拠点でもあり、一人でも多くの方に足を運んで頂きたい、とのことでした。
 さらに、会場に見えられていたNPO福島農業復興ネットワーク(FAR-net)の紹介もありました。
 被災、廃業された酪農家の方たちを福島市の牧場(「ミネロファーム」)に受け入れ、雇用創出とコミュニティ形成と経営再開への支え、福島県酪農の復興を目指しているNPOです。 
 終了後、会場に見えられていたNPOの事務局の方と名刺交換しつつ立ち話。
 避難・廃業を強いられた酪農家の方達が、ミネロファームに入ってきた牛を見た時、みるみる表情が変わった等のエピソードを伺いました。
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 大震災と原発事故から丸2年、現在も15万人もの方たちが生まれ育った地から離れることを強いられています。
 それでも菅野さん達は絶望することはなく、様々な新しい取組も進めています。
 下北沢の「ふくしまオルガン堂」は身近に訪ねることもでき、NPO福島農業復興ネットワーク(FAR-net)では1口年間1000円の賛助会員を募集しています。
 一方で都市においても、食べものや農業について、自分の生き方と照らし合わせつつ深く考え、実践している若い人たちも増えています。
 福島を含め、農山村の現場を訪ねることも大事です。
 また、東京にいても、できることはいくらでもあります。
【ご参考】
 ◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
 ◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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