◇フード・マイレージ資料室 通信 No.127◇
2017年9月20日(水)[和暦 葉月朔日]発行
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◆ F.M.豆知識 過疎地域に移住する若い世代
◆ O. カレント 谷内(赤木)美名子さん
◆ ほんのさわり 小田切徳美ほか『田園回帰がひらく未来』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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和暦では葉月に入りました。ますます空が高く月が冴える季節。
「あかあかや あかあかあかやあかあかや あかあかあかや あかあかや月」
月の歌人といわれた鎌倉時代の名僧・明恵上人の歌です。
時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月の日)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今回は葉月朔日の配信です。
No.115、116に続いて「田園回帰」について考えてみました。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるようなデータの断片を、毎回一つずつ、コツコツと紹介していきます。
-過疎地域に移住する若い世代-
日本の人口が減少に転じ東京圏への人口集中が続く中、「地方消滅」等の悲観的な論調が現れる一方、都市部から農村部に移住する「田園回帰」と呼ばれる新しい潮流が生まれつつあります。
総務省は今後の過疎対策を検討するため、「田園回帰に関する調査研究会」(座長:小田切徳美 明治大学教授)を設け、国勢調査データに基づく人口移動の詳細な分析、農山村への移住等に関する都市住民の意向調査、若年層人口が増加している市町村の現地ヒヤリングなど幅広い調査研究を実施しています。
2017年3月に公表された中間報告書の一部を紹介します。
2010(平成22) 年国勢調査のデータによると、2005~10年の間に都市部から過疎地域へ移住した者の数は、合計で26万7千人となっています(男性14万8千人、女性11万9千人)。
リンク先の図82の棒グラフは、都市部から過疎地域への移住者の数を年代別、男女別に示したものです。
http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2017/09/82_denen.pdf
これによると、全体の移住者のうち20代が6万7千人、30代が6万2千人と、20~30代が全体の約半数を占めていることが分かります。
それでは、これら移住者の数は、その地域の人口のどの程度の割合を占めているでしょうか。
折れ線グラフは、過疎地域の区域(旧市町村単位)の総人口に占める都市部からの移住者の割合が、1割を超える区域の割合を示したものです。
例えば20代の女性についてみると、全国の過疎地域の32%の区域において、都市部からの移住者が1割以上を占めているのです。
このように「田園回帰」の主役は若い世代であり、これら世代は地域の総人口の中でも相当の割合を占めていることから、コミュニティや経済面でも重要な役割を担っていることが伺えるのです。
なお、本中間報告書では、さらにブロック別の分析や、特に30代女性の移住者に焦点を当てた分析等もなされているので、関心のある方は参照下さい。
さらに、本年度末には、2015年国政調査結果の分析も含めた詳細な報告書が公表される予定とのことです。
[参考]
総務省「『田園回帰』に関する調査研究中間報告書の公表」
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei10_02000043.html
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-F.M.豆知識」
http://food-mileage.jp/category/mame/
◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
食や農の分野において先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
-谷内(赤木)美名子さん(新潟・上越市大賀)-
岡山市出身の谷内(赤木)美名子さんは、東京の服飾関係の会社に就職しパタンナーとして働いておられました。パタンナーとは、ファッション・デザイナーがイメージした画から型紙を起こして試作するという、流行の先端を行く仕事です。
そして、外資系証券界者に勤めておられた幹典さん(金沢市出身)と知り合い、結婚されました。
お二人の人生の転機となったのは5年前の大寒の日。「杜氏の郷」と呼ばれる新潟・上越市吉川区の酒蔵で開催された酒づくり体験会に参加されたのです。
棚田の雪景色の美しさや、交流会での地域の方たちとの暖かい触れ合いに感動し、その後、折にふれて吉川区に通うようになりました。そしてある日、ご主人から「移住して農業をしながら杜氏を目指したい」という夢を打ち明けられたのです。
最初は戸惑いもあった谷内さんでしたが、ご主人の夢に寄り添うことを決心し、2013年7月に吉川区に二人で移住されたのでした。さらに翌年には山間部にある大賀集落に移りました。お嬢さんにも恵まれました。大賀では33年ぶりの子どもだったそうです。
今は、地域の方々のサポートも得て米や野菜を作りながら、ご主人は杜氏の修行中、谷内さんはフリーとしてパタンナーの仕事を続けておられます。
ちなみに大賀には、私も交流活動をされている方たちに誘って頂き、これまで何度も稲作体験等で訪れています。典型的な中山間地域で、素晴らしい自然や棚田の景観の美しさには息を飲むほどです。
2017年9月2日(土)に東京・有楽町で開催された「上越市ふるさと暮らしセミナー」では、谷内さんがご家族とともに登壇され、大賀での暮らしの様子について話されました。
次々と映写されるスライドのなかの、お嬢さんの輝くような笑顔が印象的でした。
谷内さんは、「収入は東京時代の半分近くに減ったが、丘の上の家からは棚田や山々、日本海も一望できるなど、豊かな生活を送っている。東京にいた頃は子どもを持とうとは思えなかったが、今は大賀の自然に助けられてゆったりとした気持ちで子育てをし、同時に仕事もしたいという、欲張りな願望を実現できている」と話されました。
そして、子ども連れのカップルなど会場の参加者に対して、「私も精一杯サポートしますので、移住して来られるのを待っています」と呼びかけておられました。
ちなみに上越市は、子育て支援策も充実しているとのことです。
[参考]
谷内(赤木)美名子さんのブログ「Lineaとむすひ」
https://lineamusuhi.amebaownd.com/
「上越市ふるさと暮らしセミナー」の様子(拙ブログより)
http://food-mileage.jp/2017/09/06/blog-37/
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-オーシャン・カレント」
http://food-mileage.jp/category/pr/
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」だけを紹介します。
-小田切徳美、広井良典、大江正章、藤山浩『田園回帰がひらく未来-農山村再生の最前線』(2016.5、岩波ブックレット)-
https://www.iwanami.co.jp/book/b243801.html
本書は2015年11月に開催されたシンポジウム(3名の基調スピーチ及びパネルディスカッション)の内容をまとめたもの。
まず広井良典さん(京都大・こころの未来センター教授)は、現在、若い世代のローカル志向が顕著になっているのは、これからの時代に発展が期待される領域(福祉、環境、農業等)がローカルな性格を有しており、問題解決もローカルなレベルにシフトしていることを反映しているためと分析されています。
そして、人口減少の時代を「本当の豊かさや幸福を考えていく時代への入り口」とポジティブに捉えるべきとし、「いまの日本は定常型社会のあり方を先導的に実現し発信していくポジションにある」とします。
小田切徳美さん(明治大・農学部教授)は、独自の調査結果を基に、現に相当数の移住者はいるものの地域差が大きいことを明らかにした上で、魅力的な地域づくり(「地域みがき」)の重要性を強調しています。つまり、移住者が多い地域は「田園回帰と地域みがきの好循環が生まれつつある地域」と分析しています。
大江正章さん(ジャーナリスト、コモンズ代表)は、「消滅可能性」が高いとされる群馬・南牧村、埼玉・小川町、福島・旧東和村に実際に足を運び、これら地域に「未来を拓く可能性」を見出されたとのこと。
後半は「人口1%取戻し戦略」で有名な藤山浩さん(島根・中山間地域研究センター)をコーディネータに、実際に移住されて活躍されている3名の方によるパネルディスカッションで、具体的な取組み事例は大いに参考になり、触発されます。
都市と農村が互いに支えあう持続的な社会の創造に向けての、若物を中心としたムーヴメントが田園回帰とのこと(小田切さん)。本書は、その基本的なデータや具体的な実践事例をコンパクトに知ることのできる好著です。
[参考]
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-ほんのさわり」
http://food-mileage.jp/category/br/
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 上越市ふるさと暮らしセミナー(東京・有楽町)(9/7)
http://food-mileage.jp/2017/09/06/blog-37/
○ 東京ドリーム読者の集い(9/10)
http://food-mileage.jp/2017/09/10/blog-38/
○ 世田谷・喜多見農業公園(9/12)
http://food-mileage.jp/2017/09/12/blog-39/
○ 市民講座「福島の農業を再生するために」(9/15)
http://food-mileage.jp/2017/09/15/blog-40/
▼ 筆者が説明者となることを予定しているセミナー等です。
参加を希望される方等がおられれば、主催者等にお問い合せ下さい。
○ 市民講座「何をどう食べる? みんなで考える『食』の未来」
日時:(1日目)10月7日(土)10:00~12:00
「フードロス 日本の食の現状と、いま私たちができること」
講師:近藤惠津子さん(NPO法人CSまちデザイン理事長)
(2日目)10月14日(土)
「フード・マイレージ-あなたの食が地球を変える
中田が担当します。
(3日目)10月21日(土)
「葉っぱも皮も、地元野菜をまるごと味わう試食会」
講師:酒井文子さん
(食育・野菜料理コーディネーター、小金井市食育推進会議副会長)
場所:小金井市公民館東分館(東京・小金井市東町1)
主催:小金井市公民館
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.city.koganei.lg.jp/kosodatekyoiku/shisetsu/kominkan/kouzaannai/syokunomirai.html
○ フード・マイレージ-あなたの食が私たちの社会を変える
日時:11月10日(金)19:00~21:00
場所:番來舎(東京・目黒区駒場1)
主催:番來舎
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/108282553198782/
○ 江戸東京野菜コンシェルジュ育成講座総合コース(第7期、3日目)
「フード・マイレージと地産地消」「グループワークショップ」
日時:11月11日(土)10:30~16:30[3日目]
場所:JA 東京南新宿ビル(JR新宿駅南口より徒歩4分)
主催:NPO法人江戸東京野菜コンシェルジュ協会
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.edo831.tokyo/kouza/2111
▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。
○ 都会の屋上菜園スカイファームクラブ&生ビール
日時:9月24日(日)15:00~19:00
場所:ちよだプラットフォームスクウェア屋上(東京・千代田区神田錦町3)
主催:農商工連携サポートセンター
(詳細、お問合せ等↓)
http://blog.canpan.info/noshokorenkei/archive/437
○ 江戸東京野菜を食べよう!シリーズ「雑司ヶ谷カボチャ」
日時:9月26日(火)18:00~20:00
場所:西洋フード(東京・新宿区西新宿2、都庁第1本庁舎32F)
主催:江戸東京野菜コンシェルジュ協会
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.edo831.tokyo/general-info/2123
○ はじめての江戸東京野菜講座
日時:9月30日(日)13:00~16:00
場所:JA 東京南新宿ビル3F(東京・渋谷区代々木2)
主催:江戸東京野菜コンシェルジュ協会
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.edo831.tokyo/kouza/2048
○【酒粕くらぶ】立呑み屋ふろまえ
日時:10月6日(金)13:00~16:00
場所: From a & e フロマエ(東京・荒川区西日暮里4)
主催: From a & e フロマエ
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/848766051967969/
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*今号のコツコツ小咄。
「お茶やコーヒーは、考える力を養う効能があるよ」
「えっ、そうなの?」
「嗜好(思考)飲料だからね」
「コツコツ小咄」は拙ウェブサイトにも掲載しています。
http://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.128は、10月4日(水)[和暦 葉月十五日、仲秋]の配信予定です。
より有用な情報の発信に努めていきたいと改めて考えていますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
http://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
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ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
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発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/