【メルマガ】F.M.Letter No.152

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.152◇
 2018年9月24日(月)[和暦 葉月十五日]発行
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◆ F.M.豆知識  明治時代の食生活
◆ O.カレント  子規にとっての食
◆ ほんのさわり 正岡子規『仰臥漫録』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 朝夕はすっかり涼しく(寒く)なってきました。時候は二十四節気の秋分。夜と昼の時間の長さが逆転し、冬に向かっていきます。
 今年は明治維新から150年目。戊辰戦争で会津・鶴ヶ城が開城したのが150年前の9月22日です。今号は明治を意識した内容となりました。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。

-明治時代の食生活-

現代の「飽食」を嘆くあまり、江戸時代や明治時代の食生活が理想的であったとする説がありますが、実際に明治時代の食生活はどのようなものだったでしょうか。
 リンク先の図106は、1人1日当たりの供給熱量の品目別の構成比について、明治時代と現在とを比較したものです。
 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2018/09/106_meiji.pdf

 これによると、明治時代末(統計が残っている最も古い1911(明治44)~15(大正4)年平均)の1人1日当たり供給熱量は2,124kcalでしたが、これが現在(2015(平成27)年)には 2,416kcal と約14%増加していますが、その構成は大きく変化していることが分かります。

明治時代には穀類の割合が76.9%(うち米だけで59.2%)、いも・豆類が15.7%と、これらでほとんど(92.6%)を占めていました。
 それが現代は、穀類の割合は36.3%(うち米は 22.1%)にまで、いも・豆類は 6.0%へと大きく減少しています。一方、畜産物(0.4%→16.8%)や油脂類(0.6%→14.8%)が大きく増加しています。
 ライフスタイルの変化等に伴い、食生活の洋風化が急激に進んだことが分かります。

ところで明治末頃の女性の平均寿命(0歳の平均余命)は 44.73歳と、現在(86.99歳)の半分近くでした。
 むろん、これには食生活以外の多くの要因が関与していますが、当時の穀類やいもに偏った食生活が理想的という訳ではなかったことを示唆しているものと思われます(現在は逆に脂質の摂取過多が問題視されています)。

[参考]
農林大臣官房調査課編「食料需要に関する基礎統計」(1976)
 http://www.japanfoodstat.com/fbs/
農林水産省「食料需給表」
 http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/
厚生労働省「主な年齢の平均余命の年次推移(完全生命表)」
 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/22th/dl/22th_11.pdf

◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。

-子規にとっての食-

 東京・根岸に正岡子規が早すぎる晩年を過ごした「子規庵」があります。
 子規は慶応3(1867)年、現在の愛媛・松山に生まれました。16歳の時に上京して東京大学予備門に入学しましたが後に中退、記者として日清戦争に従軍した後に喀血し、闘病生活を送りながら俳誌『ホトトギス』等を舞台に俳句・短歌の革新運動に取り組みます。

やがて肺結核はカリエスに進行し「まるで阿鼻叫喚のような地獄」に陥るなか、子規は「薬も後もその他の療養法も小生には施し難き」とする一方、「ただ小生唯一の療養法は、うまい物を喰ふこと」と記しているのです(『墨汁一滴』、明治34年4月20 日付けの記事)。
 その通り、子規は病人とは思えないほどの健啖家ぶりを発揮します(「ほんのさわり」欄参照)。

しかし、子規の病はさらに重篤となり、「飯もうまくない」と嘆くようになったある日、つきっきりで看病していた母・八重や妹・律 が留守にした一瞬、子規は苦痛のあまり、身近にあった小刀と錐を手に取ろうとさえするのです。
 ちなみに記録魔・子規は、その小刀と錐のスケッチまで残しています(『仰臥漫録』、明治34年10月13日付け)。

明治35(1902)年9月19日未明、満35歳を迎える直前に子規は永眠しました。絶筆の三首にちなみ、その日は「糸瓜忌」と呼ばれています。
 病床の子規にとって食べることとは、病と闘う唯一の武器だったのです。

[参考]子規庵(東京・台東区根岸)
 http://www.shikian.or.jp/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。

-正岡子規『仰臥漫録』(1983/11、岩波文庫)-
 https://www.iwanami.co.jp/book/b248901.html

 病床において子規は多くの優れた随筆・日記文学を残しますが、その一つ『仰臥漫録』(ぎょうがまんろく)は他人に見せることを想定していなかった私的な日誌であるため、子規自身の率直な思いや身の回りの出来事が綴られています。
 自ら寝返りを打つこともできない子規は、仰向けに寝たまま、日々食べたものについても克明に記録しました。

例えば, 明治34(1901)年9月24日の食事は次のようなものでした。
[朝]ぬく飯3椀、佃煮、奈良漬、牛乳ココア入り、餅菓子、塩せんべい
[昼]粥3椀、かじきの刺身、芋、奈良漬
[間食]餅菓子、牛乳ココア入り、ぼたもち、菓子パン、塩せんべい
[タ]生鮭照焼、粥3椀、ふじ豆、奈良漬、ぶどう
 このような記録が、明治34年9月2日から翌年(死去の年)3月12日の間まで続いているのです。

死期が近い子規にとって、食べることは生きることそのものでした。
 食べることの楽しみ、食べられることの嬉しさ。そして、それが叶わなくなったときの悲しみと絶望。
 人間にとって、いかに「食」が絶対的に重要なものであるかをこの本は教えてくれます。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ サンゴバー(東京・東新宿)[9/9]
 http://food-mileage.jp/2018/09/09/blog-134/

○ 東京ドリーム読者の集い@神田・なみへい[9/13]
 http://food-mileage.jp/2018/09/13/blog-135/

○ 小川町オーガニックフェス 2018[9/15]
 http://food-mileage.jp/2018/09/15/blog-136/

○ めいこさんボラ報告会[9/16]
 http://food-mileage.jp/2018/09/16/blog-137/

○ 銀座農業コミュニティ塾 第5回勉強会[9/17]
 http://food-mileage.jp/2018/09/17/blog-138/

○ 市民科学談話会(原発事故と飯舘村)[9/19]
 http://food-mileage.jp/2018/09/19/blog-139/

○ 清水農園(東京・武蔵野市)訪問記[9/20]
 http://food-mileage.jp/2018/09/20/blog-140/

○ FoodQ(東京ミッドタウン日比谷)[9/21]
 http://food-mileage.jp/2018/09/21/blog-141/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

【筆者が登壇するイベント】
○ Food Q
 -Social Good+食Week(ソーシャルグッドな食ウィーク)-
 日時:9月18日(火)~28日(金)
 場所:東京ミッドタウン日比谷(東京・千代田区有楽町1)
 主催:BASE Q
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.hibiya.tokyo-midtown.com/foodq/

● Session 7「食×社会課題」にパネリストの1人として登壇します。
 9月27日(木)19:00~22:00

【その他】
○ トークセッション「幸せな暮らしと怠ける権利」
 日時:10月2日(火)18:45~20:45
 場所:連合会館(東京・千代田区神田駿河台3)
 主催:コモンズ
 (詳細、お問合せ先等↓)
 http://www.commonsonline.co.jp/event/event2018/20180913shiawase.html

○ 復興と巡礼(赤坂憲雄×小松理虔)
 日時:10月3日(水)19:00~21:30
 場所:ゲンロンカフェ(東京・品川区西五反田1)
 主催:ゲンロンカフェ
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://genron-cafe.jp/event/20181003/

○ いすみを食べつくす!ナイスミーフェスタ2018
 日時:10月7日(日)11:00~17:00
 場所:サンライズ(千葉・いすみ市深堀)
 主催:なみへい合同会社
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.namihei5963.com/namihei-board/detail.cgi?sheet=hp3&no=2284

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*今号のコツコツ小咄
「糸瓜(へちま)と募金は似ているね」
「えっ、そう?」
「どちらも繊維(善意)が活かされますから」

なお、コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも掲載してあります。
  http://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号 No.153は10月9日(火)[和暦 長月朔日]の配信予定です。
 より役立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
 いつもありがとうございます。
  http://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】(配信登録(無料)もこちら) 
 発行者:中田哲也
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 ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
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