◇フード・マイレージ資料室 通信 No.171◇
2019年7月3日(水)[和暦 水無月朔日]発行
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◆ F.M.豆知識 国土を守る小規模町村
◆ O.カレント 『山の暮らしを食べる通信 from さいはら』
◆ ほんのさわり 山下祐介『限界集落の真実』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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和暦では水無月に入りましたが、今年も九州・西日本を中心に強い雨が続いています。昨年のような大きな被害の無いことを祈る気持ちです。
前号では雨や川を取り上げましたが、今号では、水も守りはぐくむ「山の暮らし」について考えてみました。
時の流れを体感するため、本メルマガは和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。
(過去の記事はこちらにも掲載)
http://food-mileage.jp/category/mame/
-国土を守る小規模町村-
37.8万平方kmの国土に1億2700万人が暮らしている日本。
全国平均の人口密度(1平方km当たり人口)は336人ですが、これは地域間で大きな差があります(リンク先の図171の左側の赤い棒グラフ)。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2019/06/171_kokuchou.pdf
これによると、DID地区(人口集中地区)は6,794人であるのに対して、それ以外の地域は110人と、極めて大きな差があります。
市町村別にみても、市部は536人であるのに対して郡(町村)部は70人、町村のなかでも人口5千人以上1万人未満の町村は37人、人口5千人未満の町村は15人と、小規模町村の人口密度は非常に小さくなっています。
つまり、小規模町村は一般的に「非効率」とされ、「撤退」すべきとされることさえあります。
しかし、ここで試しに、単純に分母と分子を入れ替えてみると、全く異なる景色が現れます。
グラフの右半分(緑の棒グラフ)は、住民1人当たりの土地面積を示したものです。 これによると、全国平均では0.3ヘクタール、DID地区は0.01ヘクタール(100平米)に過ぎません。
また、市部は0.2ヘクタールであるのに対して郡部では1.5ヘクタール、うち人口5千人以上1万人未満の町村は2.7ヘクタール、人口5千人の町村は6.9ヘクタールとなっています。
当然ながら人口密度と全く逆の姿になるのですが、このことは、一般的に非効率とされる小規模町村の住民は、そこにで暮らすことによって、非常に広い面積の国土(森林や農地)を管理していることを示しています。
森林も農地も適切に管理されて初めて、水資源の涵養、洪水の防止、食料の供給など多面的な機能を発揮することができるのです。
[出典等] 総務省統計局「国勢調査」
https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2015/kekka.html
◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。
(過去の記事はこちらにも掲載)
http://food-mileage.jp/category/pr/
-『山の暮らしを食べる通信 from さいはら』-
「食べる通信」とは、食のつくり手を特集した情報誌と、彼らが生産した食べものがセットで定期的に届く“食べもの付き情報誌”です。
現在、41通信(国内37、台湾4)が発行されていますが、7月に新しい通信が創刊されます。その名は『山の暮らしを食べる通信 from さいはら』(季刊)。
山梨・上野原市西原(さいはら)地区は、都心から90分ほどという近さにありながら、昔ながらの山村の風景が残り、今も自給自足的な暮らしが息づいています。清流には水車が回り、山に囲まれた傾斜畑では、健康食として注目されるキビ、アワ等の雑穀をはじめ、様々な在来作物等が栽培されています。
本通信は、「東京に最も近い秘境」から、都会では味わうことのできない“山の食べもの”と、その背景にある自給自足的な暮らしの豊かさを届けるものです。
創刊号で取り上げられる(届けられる)のは、在来種のジャガイモ「富士のねがた」。
江戸時代には広く栽培されていたものの、現在の生産地は西原など山間部に限られており、市場には全く出回らないという希少品種で、緻密な肉質としっとり感という独特の食味があります。
小ぶりのもの(たまじ)を味噌で甘辛く煮詰めた「せいだのたまじ」は、郷土料理として有名です。ちなみに「せいだ」とは、江戸時代にこのジャガイモを普及させて民衆を飢饉から救った名代官・中井清太夫のことです。
創刊号では、鍬(くわ)一本でネガタを生産されている方(86歳)に、山で暮らす知恵や手仕事の技についてインタビューした記事も掲載される予定とのこと。
編集長の冨澤 歩(とみさわ・あゆみ)さんは、創刊の思いを、
「美しい風景が残っているのは、そこに暮らす人々が自然の循環を生かし、自然と共に生きる術を持ち続けてきたから。ここには自然の営みに沿った持続可能な暮らしのヒントとパワーがあふれている。これらを未来へ引き継いでいきたいし、読者の皆さまにも届けたい」等と語っておられます。
[参考]
『山の暮らしを食べる通信 from さいはら』
https://taberu.me/post/latest/9304.html
「食べる通信」(日本食べる通信リーグ)
https://taberu.me/
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。
(過去の記事はこちらにも掲載)
http://food-mileage.jp/category/br/
-山下祐介『限界集落の真実-過疎の村は消えるか?』(2012.1、ちくま新書)-
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480066480/
本書は、2007年頃から「限界集落」に関する議論が高まり、さらに2011年の東日本大震災よって問題が先鋭化する中、あえて「常識」に抵抗するために発表されたそうです。
その「常識」とは、「少子高齢化の進行により多くの集落が消えつつある」、「限界集落のように効率性の悪い地域には、この際、消滅してもらった方がいい」というもの。
これに対して著者は、自身のフィールドワーク(青森、新潟、高知、鹿児島等)を基に、ダム建設や災害による移転は別にして、「少子高齢化が原因で消えた集落など、探し出すのが難しいくらい」としています。
さらに、そもそも「効率性」とは何かと著者は問います。
条件不利とされる山村は、長い歴史の中ではきわめて効率性の高い地域だったとのこと。採集・狩猟、農耕や林業をベースとして、自給自足が実現されていたのです。
ところが、食料や木材、燃料等がグローバル経済(国際的な市場経済)の波に押されるようになってから、これら地域は非効率とみなされるようになりましたが、それは、高々数十年のことだそうです。
現在日本の経済社会は、グローバル経済化が進行する下、競争力の強化が叫ばれています。
著者はその必要性自体を否定しませんが、効率性を重視するあまり暮らしの「安心・安全・安定」が脅かされるなら、何のための効率化かと疑問を呈しています。
そして、安心して生きていくための暮らしの文化や技術は、農山村のコミュニティの中で継承されているとします。
また、高齢化が進んでいる地域でも、他出している子どもたちが帰ってきて祭りに参加するなど、地域を支えている現実を明らかにしています(熊本大学・徳野貞雄氏の「集落点検」という手法も紹介されています)。
それに比べて大都市においては、コミュニティが消滅し、各個人は孤立し、無力感にさいなまれているとのこと。
そして、限界集落問題の本質とは、個々の暮らしの中から地域社会をどのようにしていくかを再考し、引いては日本という社会をどのように設計していくのかが問われているものである、と結論づけているのです。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 奥沢ブッククラブのことなど[6/17]
https://food-mileage.jp/2019/06/17/blog-203/
○ 森千香子先生「移民社会の現実と課題」(脱成長MTG)[6/19]
https://food-mileage.jp/2019/06/19/blog-204/
○ 問いの思考塾(話題提供:入江杏さん)[6/22]
https://food-mileage.jp/2019/06/22/blog-205/
▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。
○ 名子の台所~巻きますよ~
日時:7月5日(金)19:00~23:30
場所:ヒナタバー(東京・新宿歌舞伎町)
主催:八幡名子さん、逢坂泰精さん
(詳細、お問合せ先等↓)
https://www.facebook.com/events/317786739164769/
○ 奥沢ブッククラブ第46回 小林秀雄『学生との対話』
日時:7月8日(月)18:30~21:00
場所:シェア奥沢(東京・世田谷区奥沢 2)
主催:奥沢ブッククラブ
(詳細、お問合せ先等↓)
https://www.facebook.com/events/348671466034342/
○ 銀座農業コミュニティー塾 第10回勉強会
日時:7月10日(水)19:00~21:00
場所:中央区立環境情報センター(東京・京橋3)
主催:銀座農業コミュニティ塾
(詳細、お問合せ先等↓)
https://www.facebook.com/events/1145908765581372/
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*舞麗児忽々の今号のコツコツ小咄。
「雨が降らない方が、景色は色鮮やかね」
「空(カラー)梅雨だからね」
注:コツコツ小咄(まとめ)は拙ウェブサイトにも掲載してあります。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号 No.172は7月17日(水)[和暦 水無月十五日]の配信予定です。
より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
https://food-mileage.jp/
ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
https://food-mileage.jp/category/blog/
メルマガ「フード・マイレージ資料室 通信」(バックナンバー)
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発行システム:『まぐまぐ!』
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