◇フード・マイレージ資料室 通信 No.188◇
2020年3月9日(月)[和暦 如月十五日]発行
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◆ F.M.豆知識 桜の開花日
◆ O.カレント 桜と日本文学
◆ ほんのさわり 佐藤俊樹『桜が創った「日本」』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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新型肺炎は未だ収束の方向は見えないなか、今年も桜の季節を迎えました。そして間もなく東日本大震災から丸9年になります。世の中が不穏な空気に覆われているからこそ、今号は桜について取り上げてみました。
時の流れを体感するため和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今号は「如月の望月のころ」の配信です。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。
(過去の記事はこちらにも掲載)
http://food-mileage.jp/category/mame
-桜の開花日-
いよいよ桜の季節が近づいてきました。
年々、桜の開花が早くなっている印象がありますが、実際にはどうなのでしょうか。
リンク先の図188の桜色の折れ線グラフは、東京における桜の開花日を表しています。上ほど遅く、下ほど早いことを示しています。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2020/03/188_kaika.pdf
これによると、年によって変動はありますが、1970年代頃まではおおむね3月25日~4月6日前後に開花していたのが次第に早くなり、1980年頃からはおおむね3月20日~3月30日の間、2000年代に入ると3月20日前後に開花する年が多くなっています。
一方、青の折れ線グラフは当該年の1~3月の東京の平均気温を表しています。これは期間を通じてほぼ右肩上がりで推移しています。
これらのグラフからは、1~3月の平均気温が高い年は、桜の開花日は早いという相関が伺えます。
今年は特に桜の開花が早いと見込まれ、民間気象会社は3月15日前後と予想していますが、このグラフのデータに基づく予測(FM式最小二乗法)では3月20日頃となります。
果たしてどちらが当たるでしょうか。
[資料]
気象庁ホームページ
https://www.data.jma.go.jp/sakura/data/sakura003_00.html
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/monthly_s3.php?%20prec_no=44&block_no=47662
◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。
(過去の記事はこちらにも掲載)
http://food-mileage.jp/category/pr/
-桜と日本文学-
古来、多くの和歌や俳句、小説に様々な桜が描かれています。それは桜自体を描写したというよりは、作者の心情を反映したものです。
以下、そのごく一部を紹介してみますが、これらを読むと、やはり日本人にとって桜は特別な花なのかも知れません。
「あしひきの 山桜花 日並べて かく咲きたらば いと恋ひめやも」(山部赤人、万葉集)
「久かたの ひかりのどけき 春の日に しづ心なく 花のちるなむ」(紀友則、古近和歌集)
「行き暮れて 木の下陰を 宿とせば 花や今宵の 主ならまし」(平家物語)
「ねがはくは 花のしたにて 春死なむ そのきさらぎの 望月のころ」(西行)
「我身世に ふるともなしの ながめして いく春風に 花の散るらん」(藤原定家、拾遺愚草)
「ここにても 雲井の桜 咲きにけり ただかりそめの 宿と思ふに」(後醍醐帝、新葉和歌集)
「咲いた桜に なぜ駒つなぐ 駒が勇めば 花が散る」(山家鳥虫歌)
「花の雲 鐘は上野か 浅草か」(松尾芭蕉)
「人恋し 灯ともし頃を 桜ちる」(加舎白雄)
「敷島の 大和心を 人とはば 朝日に匂ふ 山桜花」(本居宣長)
「いでいで夢よ、今こそ花降る夜半、さめきてうたへや、ふるき歌を」(石川啄木)
「春のうららの隅田川、櫂のしづくも花と散る」(滝廉太郎)
「大和男と生まれなば 散兵線の花と散れ」(加藤明勝)
「清水へ 祇園をよぎる 桜月夜 こよひ逢ふ人 みなうつくしき」(与謝野晶子)
「桜の樹の下には屍体が埋まってゐる」(梶井基次郎)
まだまだ多くの名作がありますが、最後に紹介するのは2011年4月27日付の日経新聞コラム「春秋」欄で紹介されていたもの。
被災者の方が投句されたものだそうです。
「さくらさくらさくらさくら万の死者」
間もなく東日本大震災から丸9年。日本人は桜に鎮魂の象徴というイメージも付け加えたのです。
3月14日には、桜の名所である富岡町・夜ノ森駅を含む常磐線が9年ぶりに全線再開します。
注:小川和佑『桜の文学史』(2004.2、文春新書)等を参考にさせて頂きました。
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166603633
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。
(過去の記事はこちらにも掲載)
http://food-mileage.jp/category/br/
佐藤俊樹『桜が創った「日本」-ソメイヨシノ 起源への旅』(2005.2、岩波新書)-
https://www.iwanami.co.jp/book/b268755.html
1963年広島生まれの社会学者(比較社会学、日本社会論)による「ソメイヨシノ革命」の書です。
今や日本の桜の約8割を占める(著者)ソメイヨシノは、江戸時代末期に染井村(現在の東京・駒込)で開発され、明治以降、日本全国に(さらには東アジアにも)急速に広がっていきました。
すべてクローン(接ぎ木等による栄養繁殖)であるため、一斉に咲いて一面を同じ色で彩り、短い開花期の後に一斉に散っていくという性質を有しています。
「桜の花はまるで空から降ってくる」「一面の花に胸が締め付けられる」(著者)という桜の景色は、実は明治以降に新しく創られたものなのですが、あたかも古来の「日本らしさ」の象徴であるかのように捉えられてきました。
本書では、歴史の浅いソメイヨシノが「日本」のイメージを創っていった様子が、多くの文献等を参照しつつ丹念に説明されています。
なお、豆知識欄で紹介した開花日や桜前線も、ソメイヨシノを標準木としているからこそ可能となったとも言えます。
また、桜は時にナショナリズムや軍国主義と結び付けらて語られることがありますが、明治以降、ソメイヨシノが急速に普及した本当の理由は「経済性」だったことを明らかにしています。苗は大量生産しやすく、根付きもよく、生育も早かったのです。
一方、ソメイヨシノを「不自然」「俗悪」と主張する意見も一部にありますが、著者はこれにも反論しています。
「人間は自然と人工を分けたがるが、人工も環境の一部である。ソメイヨシノは、彼らを取り巻く(人間社会を含む)生態系全体にうまく適応して、空前の大繁栄を勝ち得た」とし、日本社会の多様性が進むなかで、「桜らしさ=自然=日本らしさ」という図式も解体されていくものと予想しています。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ほんの1日[2/26]
https://food-mileage.jp/2020/02/26/blog-260/
イベント等の多くが延期・中止され、あるいは自粛したこともあり、ブログもあまり書けませんでした。
▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。
○ Fec自給圏(関東)スタディツアー(2)
「比企のコミュニティカフェ見学+南牧村と村づくりを考えるツアー」
日時:3月21日(土)9:30~22日(日)15:30
場所:星尾温泉 木の葉石の湯(群馬・南牧村)ほか
主催:ECOM エコ・コミュニケーションセンター
(詳細、お問合せ先等↓)
https://www.facebook.com/events/512228826352720/
○ 地域発のアルコール飲料が日本を変える
~見沼たんぼ発のジンジャービアと大学生発の農学原酒~
日時:4月4日(土)14:00~16:50
場所:ちよだプラットフォームスクウェア(東京・竹橋)
主催:戦略経営研究会
(詳細、お問合せ先等↓)
https://m-motegi.at.webry.info/202002/article_4.html
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
「この花をみると1950年代の暮らしを思い出すよ。白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫、洗濯機・・・」
「三種(サンシュユ)の神器ですね」
東京・日比谷公園では山茱萸(サンシュユ)の可憐な花が見頃です。
コツコツ小咄(まとめ)は拙ウェブサイトにも写真入りで掲載してあります。
http://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.189は3月24日(火)[和暦 弥生朔日]に配信予定です。
いよいよ年度末、ウィルス禍も収束の方向が見えていればいいのですが。
より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。
* 和暦については高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。 いつもありがとうございます。
http://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也 (購読(無料)登録はこちらから)
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
発行システム:『まぐまぐ!』
http://www.mag2.com/
バックナンバー
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ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
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ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
http://food-mileage.jp/category/blog/