【メルマガ】F.M.Letter No.263 -pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.263◇
 2023年3月22日(水)[和暦 閏如月朔日]
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◆ F.M.豆知識  進まない農業分野での価格転嫁
◆ O.カレント  フランスのエガリム法
◆ ほんのさわり 谷口信和ほか『食料安保とみどり戦略を組み込んだ基本法改正へ』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 今日から閏如月(うるう・きさらぎ)。今年は和暦では十三か月あります(得したような?)。
 WBCの劇的優勝、ソメイヨシノは満開。しかし世界情勢を思うと、心の底から温まることはありません。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−進まない農業分野での価格転嫁−

公益社団法人 日本農業法人協会は、2022年11月から12月にかけて「第2回 農業におけるコスト高騰緊急アンケート」を実施しました(対象は協会の正会員、有効回答数460)。
 これによると、ほとんど(97%)の生産者が前年10月に比べて生産コストが上昇したと回答しており、特に畜産においては54%の生産者が1.5倍以上に上昇したとしています(リンク先の一番上のグラフ)。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2023/03/263_tenka.pdf

中央のグラフがコスト上昇を受けた価格転嫁の状況で、値上げ(価格転嫁)した生産者は14%、一部値上げした生産者は32%にとどまっており、過半数の54%は改定していない(値上げできなかった)としています。
 なお、値上げを受け入れないと感じる先は、集出荷段階が63%、消費者が48%、小売業者が45%等となっている一方、消費者に直接販売している生産者については26%が値上げ(価格転嫁)できたと、比較的多くなっています。

しかしながら、販売価格を値上げした生産者についてコストのカバー率をたずねると、25%未満が過半を占めています。
 このように、燃油、肥飼料等の生産コストが上昇するなかで、農業生産者による価格転嫁は全く不十分であり、適正な価格が形成されている状況とはほど遠い現状にあります。
 私たち消費者としては、食品の値上げを嘆くばかりではなく、生産者のコスト上昇分の一部でも負担(シェア)する意識と行動が必要と考えます。

[データの出典]
 公益社団法人 日本農業法人協会「第2回 農業におけるコスト高騰緊急アンケート」(2022年12月)から筆者が作成。
 https://hojin.or.jp/wp-content/uploads/2022/12/221216costup2_overview-1.pdf

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−フランスのエガリム法−

[出典]食料・農業・農村政策審議会 第2回基本法検証部会(2022年11月2日)資料(p.21にエガリム法の概要) 

食料・農業・農村基本法の見直し作業を行っている審議会(検証部会)でも議論されているように、フランスで2018年に公布された「エガリム(Egalim)法」が注目されています。

正式名称は「農業及び食料分野における商業関係の均衡並びに健康で持続可能で誰もがアクセスできる食料のための法律」で、農業者と取引相手との適正な取引関係の促進、食品の品質・地産地消の強化、健康に寄与し信頼性及び持続可能性の高い産品の促進、食料分野におけるプラスチック使用の減少等を内容としています。
 さらに2021年に公布されたエガリム2法においては、「農業者と取引相手との適正な取引関係」の部分が強化され、農業者と最初の購入者の間での書面での契約締結の義務化、価格決定の計算式や期間を契約に含むことの義務付け等が定められており、農産物の生産コストに基づく適正な価格形成(価格転嫁)を促すことをねらいとしています。

また、学校給食等で使用する食材の50%を高品質で持続可能な食材にしていくこと、特に20%はオーガニックのものを使用することを義務付けているという規定こついても、今後の日本の学校給食を考える上で参考になります。

[参考]
 食料・農業・農村政策審議会 第2回基本法検証部会(2022年11月2日)資料(p.21にエガリム法の概要)
 https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kensho/attach/pdf/2siryo-9.pdf

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−谷口信和ほか『食料安保とみどり戦略を組み込んだ基本法改正へ−正念場を迎えた日本農政への提言』(日本農業年報68、2023年3月、筑波書房)−
 https://shop.ruralnet.or.jp/b_no=05_81190645/

気候危機、パンデミック、ロシアによるウクライナ武力侵攻により世界的な食料危機および各国の農業の持続性の危機が顕在化するなか、現在、食料・農業・農村基本法の見直し作業が行われています。しかし、本書においては、現在までのところ日本農政の立て直しの方向は見えていないとして、11名の識者による基本法の改正の方向及び具体的な提言が収録されています。

編集代表でもある谷口信和(東京大学 名誉教授)は、新たな基本法の最重要目標は食料自給率の向上であるとし、その実現のためには、耕作放棄地の復旧を軸とした農地の拡大、農業への幅広い国民の参加、地産地消など循環型の地域農業の構築が重要であるとしています。

安藤光義(東京大学大学院 教授)は、日本農業(農家、担い手、農地)の縮小が進むなか、EUのような環境要件を強化した直接支払制度を展望することが必要としています。

蔦谷栄一(農的社会デザイン研究所 代表)は、農業・農村を社会的共通資本として位置付けていくことが最大のポイントであるとし、自然観・生命観をベースとした「本来農業」を根幹に置きつつ、直接所得補償、水田農業を中心とした多様な担い手の確保、自然循環と土づくり等を重視すべきとしています。

また、西山未真(宇都宮大学 教授)が、アメリカにおける食料供給体制改革の動きを参照しつつ紹介している「総合的食農政策」も、非常に興味深い内容です。

以上紹介できたのは一部ですが、他にもEU、スイス、中国、韓国の食料安全保障政策、山形県や北海道における動向など興味深い論考が含まれており、内容はやや専門的ながら、農政の現下の課題及び今後の方向の全体像を把握するうえで大いに参考となります。
 なお、歴史のある本シリーズですが、出版元を変更することによって「出版継続に漕ぎつけた」との冒頭の記述からは、現在の出版をめぐる困難な情勢も垣間見えます。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
(今回はたくさん書いたな〜)
 ○ 今夜はご機嫌@銀座で農業−所沢/東村山まち歩き編[3/6]
 https://food-mileage.jp/2023/03/06/blog-421/

○ 北の杜FARM(山梨・北杜市)など[3/9]
 https://food-mileage.jp/2023/03/09/blog-422/

○ ヨコハマライブラリースクールと久里浜の美味[3/11]
 https://food-mileage.jp/2023/03/11/blog-423/

○ ママとマハとミカ(パレスチナに生きる女性たち)[3/14]
 https://food-mileage.jp/2023/03/14/blog-424/

○ 基本法見直しと農あるまちづくり(理論と実践)[3/16]
 https://food-mileage.jp/2023/03/16/blog-425/

○ 「箕と環」代表・川野元基さんの思い(食と農の市民談話会 3-1)[3/20]
 https://food-mileage.jp/2023/03/20/blog-426/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ とよよんマルシェ
 日時:3月25日(土)10:00〜15:00(毎月第4土曜日開催予定)
 場所:UR豊洲4丁目団地4号棟前広場(東京・江東区豊洲4-10)
 共催:(一社)地域コミュニティ振興協会、豊洲公団自治会

○ 『伝え守る アイヌ三世代の物語』出版記念作品展
 日時:3月26日(日)〜4月6日(木)10:00〜20:00
  4月1日(土)17:30〜 スライドトーク&ライブ
 場所:図書喫茶カンタカ(東京・東村山市秋津町3)
 主催:宇井眞紀子写真集出版記念プロジェクト
 (詳細、問合せ等↓)
 https://twitter.com/shonen_shashin/status/1636592338578575362

○ 「Present Tree in くまもと山都」植樹ツアー2023
 日時:4月8日(土)〜9日(日)
 場所:熊本・山都町
 主催:認定NPO法人環境リレーションズ研究所
 (詳細、問合せ等↓)
 https://presenttree.jp/blog/2023/02/16/11157/

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
 まだお休みが続きますが、情勢が動くことを期待したいと思います。過去のバックナンバーは拙ウェブサイトに掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.264は4月5日(水)[和暦 閏如月十五日]に配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(本メールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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 ブログ「新・伏臥慢録〜フード・マイレージ資料室から〜」
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