◇フード・マイレージ資料室 通信 No.317◇
2025年5月27日(火)[和暦 皐月朔日]
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◆ F.M.豆知識 米の需要見通しと実績の推移
◆ O.カレント いわゆる「減反政策」について
◆ ほんのさわり 柏木智帆『知れば知るほどおもしろい お米のはなし』
◆ 情報ひろば 「市民塾」(仮称)の開講について
ブログ更新、イベント情報等
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皐月の別名は五月雨月、稲の生長に欠かせない雨が降る月です。
現在、米(コメ)に対する関心が高まっていますが、関心の対象が小売価格に偏重していることについては違和感を覚えざるを得ません。今号は「米」を特集します。
なお、マスコミ等では某国と区別するため「コメ」と表記されるのが一般的ですが、本稿では漢字を用います。ちなみに「米」は元々はもみのかたちを表す象形文字だったそうですが、米づくりには「八十八」の手間がかかるからとも言われています。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)にコツコツと配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
-米需要の見通しと実績-
【ポイント】
米の消費量は長期的に減少してきており、国の見通しをも下回って推移してきましたが、2023/24年度には約2%の増加に転じました。

政府(農林水産省)は、米の需給及び価格の安定を図るため、毎年、審議会の議論を踏まえて翌年及び翌々年の米の需給見通し(「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」)を作成し、生産者や集荷業者・団体は、この情報を踏まえて需要に応じた生産に取り組むこととなっています。
リンク先の図317は、基本指針における2011/12年度以降の米の需要量の見通し及び実績を示したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2025/06/317_2_beikoku.pdf
水色の線が前々年(2年前)の、青い線が前年(1年前)における需要見通しです。これは、当てはまりのよい(傾向が明らかな)1996/97年度から直近までの1人当たり消費量のトレンド(回帰式)を用いて算出しています。
一方、赤い線が実績です。これらを比較すると、2022/23年度(22年7月~23年6月)まではおおむね実績が見通しを下回って推移していることが分かります。つまり、近年の米の消費量はこれまでの傾向を上回って減少してきたのです(毎年約10万トンずつ減少)。
ところが、米需要の様相は2023/24年度に一変しました。約2%の増加に転じ、翌年度に入っても堅調な需要が続いています。
この背景として、輸入小麦等が高騰する中で米が割安だったこと、インバウンド需要の拡大や南海トラフ地震臨時情報の発表に伴う買いだめ需要が生じたこと等が指摘されていますが、いずれにしても過去のトレンドからは想定外の事態が生じたのです。これがいわゆる「令和の米騒動」につながり、現在も米価格は昨年までと比べて高い水準で推移しています。
今後の米需給については、供給サイドの状況(担い手の減少・高齢化、農地の減少等)が決定的に重要ですが、需要面の状況変化も的確に把握していくことが求められます。
なお、本年1月末時点における生産者・団体に対する意向調査結果によると、本年産米の作付面積は前年産を2.3%上回ることとなっています。
[データの出典]
農林水産省「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」(各年度)から作成。
https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/beikoku_sisin/
◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
-いわゆる「減反政策」について-
【ポイント】
消費量の減少を受けて1971年から実施されてきた「減反政策」は2018年に廃止されましたが、他作物への転換に対する助成等により実質的には継続しているとの見方もあります。

戦中・戦後の深刻な食糧不足(飢餓)を体験した日本は、戦後、主要穀物である米の増産政策を強力に推進し、1967年、ようやく米の自給を達成しました。ところがこの頃から食生活の多様化・洋風化の進行によって米の消費量が減少傾向に転じたため、食糧管理制度(政府が全量を買い上げ)の下で米の在庫が積み上がり、巨額の財政負担が生じることとなりました(1968年から74年までで約1兆円の損失)。
このような状況を受けて、1971年から本格的な減反(生産調整)政策が始まったのです。
ちなみに「反(たん)」とは、土地の広さを表す単位(約1000平米、300坪)です。
当時の減反政策は、政府の買い上げ数量(生産量)を抑制することを目的に行政が転作面積を生産者一人ひとりに配分するというもので、生産調整を遵守しない者には補助金等を交付しない等のペナルティも課されました。
その後、1995年には食糧管理法が廃止されて米の流通は民間主体となる一方、米消費量の減少と価格低迷は継続し、減反(生産調整)政策には限界感が強まってきました。このため、2018年には行政による数量目標の配分が廃止され(減反政策の終了)、政府が作成する需給見通しを踏まえて生産者・団体が自主的な経営判断に基づいて生産を行うという仕組みに変更されて現在に至っています。
一方、自給率の低い麦・大豆や飼料用米に生産を転換するための助成(水田活用の直接支払い交付金等)は引き続き行われていることから、「実質的な」減反政策は継続しているとする見方もあります。
なお、これら交付金等の仕組みについては2027年度から根本的に見直す旨が、本年4月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」に盛り込まれています。
[参考]
「戦後農政の大きな流れ」(「農林水産業一口メモ」より)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/hitokuchi_memo/attach/pdf/index-106.pdf
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
-柏木智帆『知れば知るほどおもしろい お米のはなし』(2025年6月、知的生きかた文庫)-
https://www.mikasashobo.co.jp/c/books/?id=100892300
【ポイント】
「お米ライター」の著者による、お米への愛がてんこ盛の力作。稲作の現場を知る著者ならではの貴重な情報も。

著者は1982年神奈川県生まれ。新聞記者時代に農業の現場の取材を続けるうちに「お米にハマって」退職。稲作農家、おむすびケータリング等を経て、現在は「お米ライター」として雑誌やテレビ等で積極的に情報発信されています。
なお、この間、福島・猪苗代市の担い手農家の方と結婚して移住、その「現場感覚」も本書の重要な要素となっています。
本書には、お米がどこから伝わってきたか、日本史の中でお米がどのよう食べられてきたか、コシヒカリは福井県生まれであること、太る原因はお米のせいではないことなど、お米についてのうんちくがてんこ盛り。おいしいごはんの炊き方や農家直伝の卵かけごはんの食べ方など、実用的なノウハウも満載です。
また、農家が国の減反政策などに振り回されてきたこと、単純に米農家は赤字とは言い切れないこと、高齢・兼業農家が農地を手放さないため新規就農者や若手農家に農地が集まらないことなどは、「現場感覚」を有する著者ならではの見解も述べられています。
さらに、「令和の米騒動」の最大の理由は米不足にあるとし、「実際の生産量は統計よりも少ない」という農家の声があることも紹介されています。米の収穫量は統計理論に基づいて厳密に調査されているのですが、度重なる気候変動や変化する需要の実態等を十分には把握し切れていない面があるのかも知れません。
著者は、お米は日本の地形や文化をつくりあげてきた「日本の根っこ」であり、「食卓は産地等のほか過去や未来ともつながっている」とします。そして、国産のお米を食べて田んぼを維持していくことの大切さを訴えています。
お米への関心が高まっている現在(残念ながら関心の対象が小売価格に偏っている現在)、ぜひ多くの方に読んで頂きたい本です。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。
▼「食と農の市民塾」(仮称)の開講について【新規】
食と農を取り巻く深刻な問題の多くは「食と農の間の距離」が離れてしまっていることに起因しています。本塾では、特に都会の一般市民(消費者)の皆さんを対象として、食と農の現場の課題を身近に感じ、自主的な行動変容につなげて頂くことを期待して開講するものです。
第1回は「なぜ農業問題は都市住民(消費者)の問題なのか」(仮題)をテーマに6月中に開催(Zoomによるオンライン)、今後の塾の取り進め方等についても皆様と意見交換できればと考えています。
その後、月1回程度の頻度で、食や農の「現場」に精通しているゲストをお招きして開催していく予定です(時には現地見学会や料理教室をリアル開催)。
詳細は決まり次第、拙ウェブサイト、フェイスブックページ「フード・マイレージ資料室分室」等において告知しますので、食や農に関心のある多くの方の参加をお待ちしています。
https://food-mileage.jp/
https://www.facebook.com/foodmileage
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
〇 Present Tree 笛吹芦川(山梨・笛吹市)[5/15]
https://food-mileage.jp/2025/05/15/blog-576/
〇 お寺発!これからの日本社会とコモンズ(リタ市民アセット財団フォーラム)[5/19]
https://food-mileage.jp/2025/05/19/blog-577/
〇 ふくしまオーガニックコットンボランティアツアー2025【種まき編】[5/20]
https://food-mileage.jp/2025/05/20/blog-578/
〇 トークイベント「写真で伝えるパレスチナのいとなみ」(東京・神保町)[5/22]
https://food-mileage.jp/2025/05/22/blog-579/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
〇 今夜はご機嫌@銀座で農業
日時:5月28日(水)18:30~20:00
場所:中央区立環境情報センター(東京・京橋、オンライン配信も予定)
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/1368316714188123/
〇 中間貯蔵施設の不条理を読み解く
~『未来へのバトン』出版記念会~
日時:6月7日(土)14:30~16:00
場所:原子力災害考証館furusato(福島・いわき湯本温泉古滝屋)及びオンライン
主催:原子力災害考証館furusato
(詳細、問合せ等↓)
https://furusatondm.mystrikingly.com/blog/3c574a688c6
〇 鳩山あんずフェス
日時:6月15日(日)12:00~16:00
場所:鳩山町コミュニティ・マルシェ(埼玉)
主催:鳩山あんず栽培加工組合
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=pfbid0LaogmNyJgfxa5TmAEhcKvhNwDPdsTgUSPnGp55cKkWMVRKbSqdkH4fr4nrdrz9aEl&id=100006303157307
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* 米令寺忽々のコツコツ小咄
「ここの薄皮饅頭は、評判通り美味しいね」
「案(餡)にたがわず、ですね」
福島・いわき市の柏屋さんの薄皮満州は絶品です。
https://www.usukawa.co.jp/
過去のアーカイブは以下に掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.318は6月10日(火)[和暦 皐月十五日]に配信予定です。
正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつも有難うございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F.M.Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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