【メルマガ】F.M.Letter No.120

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.120◇
 2017年6月9日(金)[和暦 皐月十五日]発行
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◆ F.M.豆知識 増加する新規就農者
◆ O. カレント オアシス21オーガニックファーマーズ朝市村(名古屋)
◆ ほんのさわり 浅見彰宏『ぼくが百姓になった理由』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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 カレンダーは6月に入りました。二十四節気は「芒種」(ぼうしゅ)、この季節の雨は、穀物を含む農作物の生育に不可欠です。今号は新規就農の特集です。
 時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月の日)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今回は皐月十五日の配信です。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるような話題を毎回コツコツと紹介していきます。

-増加する新規就農者-

前々回(No.118、5/10発行)、林業就業者は若返りが進んでいるのに対して、農業就業者は高齢化している状況を紹介しました(リンク先の図73)。
 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2017/05/73_40saimiman.pdf
 しかし、このグラフにも一部現れていたのですが、実は新規就農者も最近増加しているのです。
 2015年に新たに農業に就いた人(新規就農者)は6万5,030人と、前年から13%増加しました。近年、新規就農者数は5万人台で推移していたのですが、ここ3年間は連続して増加しており、2015年は、2009年以来6年ぶりに6万人を超えました(リンク先の図75の棒グラフ)。
 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2017/06/75_sinki.pdf

これを就農形態別にみると、新規自営農業就農者(農家の後継ぎ等)は5万1,020人、 新規雇用就農者(農業法人等に就職)は1万430人、新規参入者(農地等を自ら調達)は 3,570人となっており、前年からの伸び率では新規雇用就農者が36%と最も高くなっています。
 新規就農者に占める新規雇用就農者の割合をみると、2006年以降ほぼ一貫して上昇しており、農業法人が新たに農業を志望する人の受け皿の役割を果たしていることが伺えます(リンク先の図75の折れ線グラフ)。

また、年齢別にみると49歳以下が2万3,030人(全体の35.4%)となっていますが、これは調査開始以来、最多となりました。
 これらの状況は、若い世代の間に、職業としての農業のみならず、「田園回帰」など農的なライフスタイルへの関心と志向が高まっていることを現しているものと思われます。

なお、新規就農を希望する人たちは、有機農業に対する関心が高いことが特徴としてあげられます。
 「新・農業人フェア」(2010年)における就農希望者の意識調査によると、「有機農業をやりたい」が28%、「有機農業に興味がある」が65%となっているのに対し、「有機農業に興味がない」は7%に留まっているのです。
 これらについても、機会があれば詳しく紹介したいと思います。

[参考]
 農林水産省「新規就農者調査」
  http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sinki/index.html
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-F.M.豆知識」
  http://food-mileage.jp/category/mame/

◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方やトピックス等を紹介します。

-オアシス21オーガニックファーマーズ朝市村(名古屋)-

名古屋の真ん中・栄(さかえ)にある複合施設・オアシス21で、毎週土曜日午前中に開催されているのが「オアシス21オーガニックファーマーズ朝市村」です。

オアシス21を管理運営する第3セクターと朝市村実行委員会の共催により「朝市村」がスタートしたのは2004年のこと。
 当初は出店農家10戸、来客数100人程度で月2回の開催でしたが、2009年からは毎週開催に変更され、現在は毎回、愛知・岐阜を中心とした約70戸の有機農業に取り組む農家が出店し、約1200人が来場。
 年間売上高は約5500万円という規模となっているそうです。

生産者にとっては、この場で農産物を直売できるだけではなく、有機農産物を扱う流通や飲食店の関係者との出会いの場となり、販売拡大と経営の安定につながっているとのこと。
 また、生産者同士の情報交換の場にもなっています。有機農業に取り組む生産者は全体のなかではまだ少数派ですが、「朝市村」は、志を共にする仲間が週1回定期的に集い、切磋琢磨する貴重な場ともなっています。
 また、有機農業で新規就農を志望する人たちのための「就農相談コーナー」も常設されています。ここを窓口に新規就農した方は30人を超えており、有機農業を広めていく上で、さらには新規就農者が移住した地域の活性化の面でも、朝市村は大きな役割を果たしているのです。

さらには、対面販売が原則であることもあり、出店者(農家)と消費者(都市住民)との間の「顔が見える」交流にもなっています。
 農家と親しくなった消費者(子どももいます。)がボランティアとして朝市村の運営に関わるようになり、さらには消費者が農作業の手伝いに農家を訪ねるケースも年々増えているなど、都会の真ん中にある「畑の入り口」の役割も果たしています。
 朝市村でも、新規就農者が移住した地域へのツアー等を企画されています。
 なお、愛知県栄養士会による「栄養相談コーナー」、東海農政局「移動消費者の部屋」も定期的に開設されています。

このような取組みは、生産者(農村)と消費者(都市)との新たな交流モデルとして高く評価され、2016年には第45回日本農業賞(食の架け橋の部)大賞を受賞されました。

朝市村の事務局(村長)を務めておられるのは、吉野隆子(よしのたかこ)さん。
 「当初の目的は有機農業の新規就農者の販路を拡大することだった。ところが始めてみると、消費者も農家との交流を求めていることが分かり、想像を超えて次々と双方向の交流が生まれていった」とのこと。
 吉野さんは「もっと“笑顔の種まき”をして、オーガニックの裾野を広げたい」と願っておられます。

[参考]
 オアシス21オーガニックファーマーズ朝市村
  http://www.asaichimura.com/
 第45回日本農業賞(食の架け橋の部)大賞
  http://www.nhk.or.jp/nougyou/awards/award2016/index.html
 拙ブログ(2017年6月3日に訪問した時の様子)
  http://food-mileage.jp/2017/06/06/blog-24/
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-オーシャン・カレント」
  http://food-mileage.jp/category/pr/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野について、考えるヒントとなるような本の「さわり」だけを紹介します。

-浅見彰宏『ぼくが百姓になった理由(わけ)-山村でめざす自給知足』
  (2012/11、コモンズ)-
  http://www.commonsonline.co.jp/bokugahyakusyou.html

著者は1969年千葉県の生まれ。
 バブル景気まっただ中、上智大学文学部を卒業して大手鉄鋼メーカーに就職。アジアへの輸出業務等に携わるなか、次第に行き過ぎた市場経済と、そのために生まれた貧困や格差、環境問題など社会の矛盾を感じるようになったそうです。
 さらに1993年の冷夏による大凶作を目の当たりにし、日本農業の脆弱さと、自分も含めた日本人の農業や食べものに対する意識の低さに衝撃を受け、消費するばかりの自分のライフスタイルをリセットするために農業を志すようになったとのこと。
 そして偶然、書店で手にした金子美登さん(埼玉・小川町)の本に感銘し、直接電話して研修生として受け入れてもらったのが26歳の時。

1年間、金子さんの下で農業技術のみならず生き様まで学びながら、浅見さんは、雪国への憧れもあり、あえて過疎化が進んだ条件不利な山間地の就農先を探します。そして1996年、福島・会津地方の喜多方市山都町早稲谷地区(やまとまち・わせだにちく)に移住されたのです。
 80%以上が山林で、飯豊山の登山口に当たる豪雪地帯です。

住居や農地(耕作放棄地)を借り、造り酒屋等でアルバイトをしながら「ひぐらし農園」 をスタートさせた浅見さん(この辺りの苦心談や人との縁なども読み応えがあります)は、もともと移住した地域に何らかの貢献をしたいとの思いがあったことから、様々な活動に取り組み始められました。

その一つが堰さらいボランティアの募集です。
 地域にある本木上堰(もときうわぜき)は、江戸時代中期に12年の難工事の末に完成した延長6km ほどの山腹水路ですが、離農と高齢化のため共同作業による水路の維持・管理が次第に困難になりつつありました。もともと受益面積(水田)は10haほどに過ぎず、「費用対効果」「経済合理性」は高くはない水路です。
 そこで浅見さんは、最も重労働である春先の堰さらいについてボランテイアを募集することとしたのてす。都会からのボランティアは毎年増加し、地元の方達の意識の変化を含め、様々な交流による成果が現れています。
 他にも試行錯誤を重ねながら、地域通貨、手作り醤油トラスト、直売イベント(百姓市)、新規就農者グループの組織化等にも取り組んでこられました。

浅見さんにとって有機農業とは、単なる農法を指しているのではなく、「行き過ぎた市場経済によって失われた人間と自然との関係、人間と人間との関係を、農業を通じて取り戻す運動」とのこと。
 本書が上枠されてから5年の間、東日本大震災と原発事故という試練も経て、浅見さんは現在、NPO法人福島県有機農業ネットワークの理事長を務めるなど、地域のリーダーとしてますます活躍されています。

本書は、次のような浅見さん(ひぐらし農園)の信条で締めくくられています。
 「ひぐらし農園の目指す農業は『未来を拓く農業』でありたい。そのためには、社会性があり、永続的であり、科学的であり、誠実であること。そして、排他的であってはならない」

[参考]
 ひぐらし農園
  http://white.ap.teacup.com/higurasi/
 本木・早稲谷 堰と里山を守る会
  https://www.facebook.com/sekitosatoyama/
 拙ブログ(2017年6月3日に訪問した時の様子)
  http://food-mileage.jp/2015/07/23/blog_cs/
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-ほんのさわり」
  http://food-mileage.jp/category/br/

◆ 情報ひろば
  拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ イラク緊急報告と対談-高遠菜穂子氏×雨宮処漂氏(5/27)
  http://food-mileage.jp/2017/05/27/blog-22/

○ はじめての江戸東京野菜講座@新宿御苑(6/1)
  http://food-mileage.jp/2017/06/01/blog-23/

○ オアシス21オーガニックファーマーズ朝市村(名古屋)(6/6)
  http://food-mileage.jp/2017/06/06/blog-24/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
  既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 総合人間学会 第12回研究大会
 日時:6月10日(土)13:30~11日(日)18:00
 場所:学習院大学(東京・豊島区目白1)
 主催:総合人間学会
 (詳細、お問合せ等↓)
  http://synthetic-anthropology.org/?page_id=411

○ 第13回 森の読書会
 日時:6月17日(土)10:00~12:00
 場所:森の食卓(東京・三鷹市井の頭5)
 主催:まちライブラリー、森の読書会
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/1361135183966531/

○ 共奏キッチン♪@自由が丘シェア奥沢76
 日時:6月22日(木)18:00~22:00
 場所:シェア奥沢 (東京・世田谷区奥沢2)
 主催:共奏キッチン
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/115573692367078/

○ 新宿御苑 STUDY& CAFE vol.4「内藤新宿試験場と福羽逸人」
 日時:6月24日(土)11:00~13:30
 場所:新宿御苑インフォメーションセンター、ゆりのき(東京・新宿区)
 主催:NPO法人江戸東京野菜コンシェルジュ協会
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.edo831.tokyo/kouza/1978

○ 6月体験農園/ほたるを楽しむ会
 日時:6月24日(土)13:00~20:00
 場所:かんちゃんファーム(埼玉・鳩山町)
 主催:かんちゃんファーム体験農園
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/131096097467500/

○ 「いのちの種を抱きしめて」映画上映と対話の会
 日時:6月24日(土)14:00~17:00
 場所:森の食卓(東京・三鷹市井の頭5)
 主催:田中 眞喜子さん他
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/1844821872446948/

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*今号のコツコツ小咄。
 「麦と月は似ているよね」
 「えっ、なんで?」
 「大と小があるもの」
 注:「コツコツ小咄」は拙FBページにて土日祝を除く毎日、絶賛(?)投稿中です。
  拙ウェブサイトにも掲載しています。
  http://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.121は、6月24日(土)[和暦 閏皐月朔日]の配信予定です。
  より有用な情報の発信に努めていきたいと改めて考えていますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
  http://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
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 ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
  http://food-mileage.jp/category/blog/
 発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/