◇フード・マイレージ資料室 通信 No.121◇
2017年6月24日(土)[和暦 閏皐月朔日]発行
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◆ F.M.豆知識 小規模農家の生産性
◆ O. カレント 小農学会
◆ ほんのさわり 山下惣一『小農救国論』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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今年は数年に一度の閏月の年。夏至(11日)も過ぎ、間もなく梅雨が明けると本格的な暑い夏が到来します。今号は「小農」に焦点を当ててみました。
時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月の日)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今回は閏皐月朔日の配信です。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるような話題を毎回コツコツと紹介していきます。
-小規模農家の生産性-
農林業センサスによると、2015年の農業経営体(農家及び組織)の数は全国で138万経営体、うち都府県には134万経営体あります。
これを経営耕地規模別にみると、0.5ha 未満が23%、0.5~1haが33%と、1ha未満の経営体が過半を占めています。一方、10ha 以上の経営体は全体のわずか2%に過ぎません。
このように、日本の農業経営体の多くは小規模経営なのです。
ちなみに平均経営面積でみると2.5haですが、これはアメリカの176ha、EU28か国平均の16ha等と比べると大きな格差があり、規模拡大等による生産性の向上と農業の競争力強化が日本の農業政策の大きな柱となっています。
農業経営の生産性の現状を示したのがリンク先の図76です。
http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2017/06/76_seisansei.pdf
これによると、家族農業労働1時間当たり農業所得(労働生産性)は、0.5ha未満層では721円、0.5~1ha層では361円に留まっていますが、規模が拡大するに連れて上昇し、10ha以上層では2,536円と大きなものとなっています。
つまり労働生産性の向上の面では、規模拡大は非常に有効な手段であることが伺えます。
一方、経営耕地面積10a当たり農業所得(土地生産性)をみると、0.5ha未満層が231円と最も高くなっており、1ha以上では規模間の格差はあまり大きくなく、10ha以上層では68円とやや减少しています。
このように、土地生産性と労働生産性とでは大きく様相は異なるのです。
これまで日本の農政は(あるいは他の産業政策も)、労働生産性の向上を主眼として進められてきました。生産性の向上とは、すなわち労働生産性のことを指していたのです。
ところが、広井良典先生(京都大学こころの未来研究センター教授)が以下のような興味深い論点を提起されています。
経済が成熟化し「定常化社会」に移行しつつあるなか、多くの先進国では生産性が上がりすぎた結果、構造的な生産過剰と失業の慢性化といった現状にある。これら問題を解決するためには、従来型の労働生産性の追求から、環境効率性(ないし資源生産性)の追求へのシフトが必要、と論じておられるのです。
労働生産性が低いということは、雇用吸収力が大きいことも示しています。
であるとすれば農業の分野においても、大規模経営の優位性は、これまでほど明白なものではなくなっているのかも知れません。
[参考]
農林水産省「経営形態別経営統計(個別経営)」
http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noukei/einou_syusi/index.html
広井良典『コミュニティを問いなおす」(2009.8、ちくま新書)
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480065018/
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-F.M.豆知識」
http://food-mileage.jp/category/mame/
◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方やトピックス等を紹介します。
-小農学会-
2015年11月29日、ユニークな「学会」が設立されました。
共同代表は萬田正治さん(農業、元鹿児島大学教授)と山下惣一さん(佐賀、農業・農民作家)。副代表や世話人には九州を中心とした著名な生産者や学識経験者が名を連ねています。
設立の趣旨は以下のようなものです(設立趣意書より)。
21世紀に入っても世界は混迷の一途をたどるなか、戦後、日本は経済大国として復興したものの農村から都市へと人は大移動し、過疎の村と過密の都市という地域に二極分解した。大型スーパー等で食材を買う都市生活者にとって、生き物の命を育み命をいただくという意識は薄れている。
これまでの価値観から抜け出し、斬新な発想に立って、自らの生き方と、わが国の進路、とりわけ農業・農村社会の方向性を探求していく必要がある。そのためには、自らの意志と頭で学習を積み重ね、研鑽する努力が今求められている。
大規模化・企業化の道を推し進めようとする農政の流れに抗して、「もう一つの農業の道(複合化・小規模・家族経営・兼業・農的暮らしなどの小農の道)をめざす勢力が結集し、研鑽し、社会的発言力を高める必要があるのではないか。
なお、「小農」とは生産者(農家等)だけではなく、農に関わる都市生活者も含まれる新しい概念とのことで、参加資格は「趣旨に賛同する者」と広く開かれています。
年1回の総会とシンポジウム、会誌の発行等の活動をされているとのことで、取り急ぎ、入会の申し込みをさせて頂きました。
今後の活動に期待したいと思います。
[参考]
小農学会(萬田農園ホームページ)
http://www.mandanoen.com/sagri.html
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-オーシャン・カレント」
http://food-mileage.jp/category/pr/
◆ ほんのさわり
食や農の分野について、考えるヒントとなるような本の「さわり」だけを紹介します。
-山下惣一『小農救国論』(2014/10、創森社)-
http://www.soshinsha-pub.com/bookdetail.php?id=360
著者は1936年、佐賀・唐津市の生まれ。家業である農業を営まれつつ、農村の実情を踏まえた小説、エッセイ、ルポルタージュ等を発表してこられた方です。
本書のテーマ・結論は「小農こそが国と国民を救う」。「大規模農業を否定するつもりはないが、小さいからこそ農業はやっていける」というのが山下さんの主張です。
ちなみに小農(家族農業)とは「暮らしを目的として営む農業」のことだそうです。
山下さんによると、現在、専業の大規模経営は農産物価格の低迷等により厳しい経営状況にあるのに対して、小農は、都市の消費者とつながる「生消提携」や「地産地消」など知恵を絞って生き残ってきたとのこと。
さらに、儲けを目的としない小農は不採算部門(カネにならない百姓仕事)を抱え込んでおり、これこそが農業の土台を支えるとともに、自然環境や美しい農村の風景を守ってきたとも分析されています。
そして小農は、効率、コスト、競争力では劣るものの、永続性、環境保全、生物多様性という「新しい未来像のモノサシ」を当てれば、「おそらく世界でも最も進んだ優れた農業に違いない」と結論づけられているのです。
山下さんの主張は、消費者にも向けられています。
「消費者が金を払って食べることは選挙における投票活動と同じ。どんな農業と食生活の未来に投票するのか。消費行動を通じて多くの人に支えて欲しい」と訴えておられます。
さらには、自分と家族が食べるものは自給することが大事であるとし、日本版ダーチャや半農半Xなど「市民皆農」の時代がくることも予言されているのです。
「経済の問題は、結局、損か得か。食料の問題は生きるか死ぬかの話。経済成長一辺倒から路線変更すべき。国がしないのなら、皆でせんといかんのやないか」。
そのような思いで仲間と立ち上げられたのが、先に紹介した「小農学会」です。
[参考]
拙ブログ(2017年6月10日の山下さんご講演の様子)
http://food-mileage.jp/2017/06/16/blog-25/
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-ほんのさわり」
http://food-mileage.jp/category/br/
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 山下惣ーさん「体験的農業論」(@ 総合人間学会)(6/16)
http://food-mileage.jp/2017/06/16/blog-25/
○ 第13回 森の読書会(6/22)
http://food-mileage.jp/2017/06/22/blog-26/
▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。
○ 江戸東京野菜を食べよう!シリーズ「寺島ナス」
日時:6月27日(火)17:30~19:30
場所:西洋フード (東京都庁職員食堂 南側)
主催:江戸東京野菜コンシェルジュ協会
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.edo831.tokyo/general-info/1997
○ 落花生苗の植えつけ&夏の柴刈り
日時:7月2日(日)9:30~16:30
場所:山梨・上野原市西原地区
主催:しごと塾さいはら
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/1157997357639612/
○ 大豆種まき in 横田農場
日時:7月2日(日)9:30~
場所:東武東上線・小川町駅前集合(埼玉・小川町)
主催:(有)USP研究所
(詳細、お問合せ等↓)
http://uspeace.jp/user_data/event_trial.php#mamemaki
○ 脱成長ミーティング 第14回公開研究会
日時:7月8日(土)18:00~21:30
場所:ピープルズ・プラン研究所(東京・文京区関口1)
主催:脱成長ミーティング
(詳細、お問合せ等↓)
http://umininaru.raindrop.jp/datsuseichou/tuo_cheng_zhangmitingu/di13hui_kai_cui_jiang_zuo.html
○ 福島からローカルSDGsを考える~持続可能な食と農の再生のために~
日時:7月11日(火)18:30~20:30
場所:地球環境パートナーシッププラザ(東京・渋谷区神宮前5)
主催:国際青年環境NGO A SEED JAPAN
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/203445773513778/────────────────────
*今号のコツコツ小咄。
「この法案が成立するか否かは世論次第。アジサイの花の色と同じです」
「えっ、どういうことですか?」
「酸性(賛成)の度合いによりますから」
注:「コツコツ小咄」は拙FBページにて土日祝を除く毎日、絶賛(?)投稿中。
拙ウェブサイトにも掲載しています。
http://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.122は、7月8日(土)[和暦 閏皐月十五日]の配信予定です。
より有用な情報の発信に努めていきたいと考えています。読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
http://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
http://food-mileage.jp/
ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
http://food-mileage.jp/category/blog/
発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/