【メルマガ】F.M.Letter No.124

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.124◇
 2017年8月6日(日)[和暦 水無月十五日]発行
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◆ F.M.豆知識 米の配給量と戦後の米消費の推移
◆ O. カレント 都庁職員食堂(西洋フード・コンパスグループ)
◆ ほんのさわり 野坂昭如『火垂るの墓』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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今年も鎮魂と平和を祈る季節が巡ってきました。
 今日8月6日には広島、9日には長崎に原爆が投下され、他の全国の多くの都市も焦土と化しました。そして15日には72回目の終戦記念日を迎えます。戦中から戦後の一時期にかけて深刻な飢餓を体験したことも、忘れてはならないと思います。
 時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月の日)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今回は水無月十五日の配信です。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるような話題を毎回コツコツと紹介していきます。

-米の配給量と戦後の米消費の推移-

戦時経済体制の一環として、1941年4月、米穀の割当通帳制が六大都市(東京、大阪、名古屋、京都、神戸、横浜)において初めて実施され、その後、全国に拡大されました。
 この時の米穀配給の基準割当量は、一般人(11~60歳の重労働ではない者)の場合、1人1日当たり330グラム(2合3勺、1,158キロカロリー)でした。これを1年間に換算すると120.4キログラムとなります。

これは、どの程度の量でしょうか。リンク先の図79は、その後の米消費量(1年間の供給純食料)の推移と比較して図示したものです。
 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2017/08/79_haikyu.pdf

1960年度における米の1人当り年間消費量は114.9キログラムでしたが、その後、米消費量は一貫して減少し、現在(2015年度概算)は54.6キログラムとなっています。
 これはピーク時(1963年度の118.3キログラム)に比べると半分以下(46%)であり、食糧難とされた戦時下の基準配給量と比較すると45%に過ぎません。

これはやや意外な感じがするかも知れませんが、戦後、日本人の食生活は多様化・欧米化し、畜産物、油脂、小麦等の消費量が大幅に増え、カロリー摂取量に占める米の地位は大きく低下しているのです。
 このような米の消費量からも、戦中・戦後が遠い時代となったことが実感されます。

なお、当時の「2合3勺」がとても十分な量ではなかったことは、「ほんのさわり」欄でも紹介します。

[参考]
 法政大学大原社会問題研究所「日本労働年鑑・主要食糧の配給と消費」
  http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/rn/senji1/rnsenji1-134.html
 農林水産省「食料需給表」
  http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/zyukyu/#r
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-F.M.豆知識」
  http://food-mileage.jp/category/mame/

◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方やトピックス等を紹介します。

-都庁職員食堂(西洋フード・コンパスグループ)-

戦後からの復興を象徴するかのように東京・西新宿にそびえる東京都庁第1庁舎。
 その32階南側に西洋フード・コンパスグループ(株)が運営する都庁職員食堂があります。職員だけではなく、用務で都庁を訪れた一般の方等も利用することができます(入庁するためにはセキュリティ上の手続きが必要)。

この食堂は、都内産農林水産物を積極的に使用し、その良さを来店者等に情報発信する飲食店「とうきょう特産食材使用店」として東京都により登録されており、八丈島産のメダイや東京X豚を用いたメニューも提供されています。

さらに2016年5月からは、毎月、「江戸東京野菜フェア」として、旬の江戸東京野菜を特集した特別メニューが期間限定で提供されています(夜のみ)。これまで亀戸ダイコン、寺島ナス、川口エンドウ等が取り上げられてきました。
 さる7月は「おいねのつる羊」の特集でした。おいねのつる羊とは、東京都の西端・檜原村に伝わる伝統のじゃがいも。昨年、江戸東京野菜に追加認定されたばかりです。
 山梨県からお嫁に来た「おいね」さんという人が種羊を持参し、作り始めたと伝えられています。ちなみに「つる」とは山梨・都留地方(地名)を指しているそうです。

今後も、ほぼ月1回のペースで様々な旬の江戸東京野菜を取り上げていく予定とのこと。まだ一般的には珍しい江戸東京野菜が食べられる企画として、これからも注目・期待しているところです。

[参考]
 西洋フード・コンパスグループ(株)東京都庁店(とうきょう特産食材使用店)
  http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/norin/syoku/ouenten/shop/info_204.html
 西洋フード・コンパスグループ(株)
  http://www.seiyofood.co.jp/
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-オーシャン・カレント」
  http://food-mileage.jp/category/pr/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」だけを紹介します。

-野坂昭如『火垂るの墓』(1972/1、新潮文庫)-
 http://www.shinchosha.co.jp/book/111203/

1930年、鎌倉市に生まれた野坂昭如(2015没)は生後半年で神戸に養子に行き、1945年の神戸大空襲に遭遇。『火垂るの墓』(ほたるのはか)は、その原体験に基づく小説として1967年に発表され、姉妹作の『アメリカひじき』とともに翌年、直木賞を受賞しました。その後、映画化・ドラマ化も何度かされています。

主人公は、野坂自身がモデルとされる清太少年。
 父親は出征中で音信不通、6月5日の空襲で母親を亡くし、4歳の妹・節子とともに西宮の遠い親戚にいったん身を寄せるものの、酷い扱いを受け、親戚宅を出て防空壕で自活するなか、妹を栄養失調で失います。

作中では、当時の食糧事情が繰り返し描かれています。
 親戚宅に身を寄せた当初こそ罹災証明があれば「米鮭牛肉煮豆」の特配があったものの、やがて「二合三勺も半分は大豆麦唐きび」になったとのこと。ちなみに「二合三勺」は「豆知識」欄でも紹介しましたが、とても十分な内容ではなかったことが描かれています。
 自炊を始めてからは「タコ草南瓜の茎のおひたし、池のたにしのつくだ煮」など。ちなみに「タコ草」とは雑草のスベリヒユのことのようです。
 衰弱していく妹をながめる清太は「指切って血イ飲ましたらどないや」「指の肉食べさしたろか」とさえつぶやきます。

妹の亡骸を自ら火葬した清太は、水と便所はある三宮駅に移ります。
 駅前の闇市には多くの食べ物が並んでいました(「蒸し芋芋の粉団子握り飯大福焼飯ぜんざい饅頭うどん天どんライスカレーから、ケーキ米麦砂糖てんぷら牛肉ミルク缶詰魚焼酎ウイスキー梨夏みかん」)。
 もっとも清太が口にできたのは、「仏様に供えるようにややはなれた所にそっとおく食べ残しのパンおひねりのいり大豆」等だけです。
 そして(1ヶ月以上前に戦争は終わっていた)9月22日、三宮駅構内の浮浪児の一人として、清太もやはり栄養失調で「野垂れ死に」するのです。

執拗なまでの食べものの描写には、作者の「飢えに対する恐怖」「食べものへの恨み」が込められているかのようです。

[参考]
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-ほんのさわり」
  http://food-mileage.jp/category/br/

◆ 情報ひろば
  拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 江戸東京野菜を食べよう!「おいねのつるいも」(7/29)
  http://food-mileage.jp/2017/07/29/blog-34/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。
 もっとも私は個人的な事情により、8月一杯はあまり顔は出せないかも知れません。

○ 戦後72年。いま感じていることを持ち寄り対話しませんか
 日時:8月16日(水)19:00~21:15
 場所:ご近所ラボ新橋(東京・港区新橋6)
 主催:ご近所ラボ新橋
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/108083703228722/

○ よみがえりのレシピ、在来作物で味覚のレッスン ロータスシネマ13
 日時:8月19日(土)13:00~17:30
 場所:常圓寺(東京・新宿区西新宿7)
 主催:LotusCinema/ロータスシネマ
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/104240120256460/

○ 江戸東京野菜を食べよう!シリーズ「八王子ショウガ」
 日時:8月22日(火)17:30~20:00
 場所:東京都庁職員食堂西洋フード(東京・西新宿、東京都庁第1本庁舎32F)
 主催:江戸東京野菜コンシェルジュ協会
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/1479423225449196/

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*今号のコツコツ小咄。
 「甲子園出場を決めた喜びを、最初に誰に伝えたいですか?」
 「やはり今日まで育ててくれた両親です」
 「さすが、高校(孝行)野球ですね」

 (「コツコツ小咄」は拙ウェブサイトにも掲載しています。)
  http://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.125は、8月22日(火)[和暦 文月朔日]の配信予定です。
  より有用な情報の発信に努めていきたいと改めて考えていますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
  http://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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