【メルマガ】F.M.Letter No.166

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.166◇
 2019年4月19日(金)[和暦 弥生十五日]発行
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◆ F.M.豆知識  過去の平均気温の推移と災異改元
◆ O.カレント  市川英樹さん(福島田んぼアートプロジェクト)
◆ ほんのさわり 菊池勇夫『飢饉』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 二十四節気は清明(万物発して清浄明潔なり)から穀雨へ。作物を潤し育てる雨が増えてくる時候です。自然の恵みのありがたさ、食べものの大切さを思う季節でもあります。
 本紙は、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/mame/

-過去の平均気温の推移と災異改元-

前号では、平成までの246回の改元のうち、災害や飢饉など凶事を理由にした災異改元が4割以上を占めていることを紹介しました。
 それでは、災異改元が行われた年(あるいはその前年)は、実際に飢饉等が起こるような気象条件だったのでしょうか。

近年、樹木の年輪幅や湖沼の堆積物のデータ、あるいは古文書の記録等を用いて、過去の長期的な気温や降水量の推移を解明する「古気候復元」の研究が進展しています。
 総合地球環境科学研究所「気候適応史プロジェクト」もその一つで、同プロジェクトのウェブサイトでは、樹木の年輪幅から再現した西暦800年以降の夏季(6~8月)の平均気温のデータ(1961~90年の平均気温との偏差)が公開されています。

リンク先の図119の折れ線グラフは、このデータを図示したものです。ただし1514年まで(青)は東アジアの、1515年以降(緑)は東アジアのデータから抽出した日本の平均気温の推移を示しています。
 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2019/04/119_kikousi.pdf

一方、赤色の縦の直線は災異改元が行われた年を示しています(ただし食料や農業と直接関係しない大火や彗星出現を理由としたものは除外く)。

これらを見ると、夏期が低温であるか低下傾向にある時期に、災異改元が比較的集中している様子が見てとれます。
 現に古記録によると、1100年代前半には天永の飢饉、元永の飢饉、大治の飢饉、長承・保延の飢饉、1200年代には寛喜の飢饉、正嘉の飢饉、140年代後半には寛政の飢饉等が頻発しています。
 自然の猛威から何とか免れようとした窮余の方策の一つが、改元だったのです。

近世に入ると災異改元の回数は(改元そのものの頻度も)減少しますが、それでも、江戸三大飢饉と呼ばれる享保の飢饉(1732)、天明の飢饉(1782)、寛永の飢饉(1883)の頃は、やはり夏期の気温は低くなっています。
 なお、江戸期の飢饉による被害が中世に比べて大規模となった背景には、全国的な市場経済の浸透があるともされています(「ほんのさわり」欄参照)。

[気温データの出典]
 総合地球環境学研究所「気候適応史プロジェクト」ホームページ
  http://www.chikyu.ac.jp/nenrin/data.html
[災異改元についての参考資料]
 グループSKIT『元号でたどる日本史』(PHP文庫、2016.7)
  https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-76581-5

◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/pr/

-市川英樹さん(福島田んぼアートプロジェクト)-

市川英樹さん(福島田んぼアートプロジェクト実行委員長)は愛知県のご出身。東京電力・福島第一原子力発電所の事故後、廃炉作業員として初めて福島に来られました。
 毎日、現場に向かう車中から市川さんが見たものは、事故により避難が強いられるなどして管理ができなくなり、雑草に覆い尽くされた田んぼの風景でした。事故前は地元の、さらには首都圏の食を支えていた田んぼの無残な姿に、市川さんの胸は痛みました。

その一方で、市川さんは地元の方たちの暖かさに触れるうちに、次第に福島の地に魅かれていきました。そして2015年に移住を決心し、いわき市四倉町で農業を始められたのです。
 回りには、まだまだ荒れた田んぼがありました。市川さんは、地域の田んぼを再生し、農と食の元気な姿を発信することで、福島・浜通りの復興に貢献したいという思いを強く抱くようになりました。

その思いをどのように形にするか模索していた市川さんは、隣の田村市常葉地区で「田んぼアート」の取組みが行われていることを知り、足を運びました。田んぼアートとは、古代米など色の異なる稲で田んぼに絵柄を描くというものです。さらに、発祥地とされる青森・田舎館村も視察されました。
 そして自分の目で確かめ、感じた思いを胸に、2017年から独自に田んぼアートのプロジェクトを立ち上げられたのです。

プロジェクトは、地域の方たちやボランティアの賛同・協力を得て、3年目に入りました。その第一弾として、5月5日(日)には「2019田んぼアート田植え体験 in 四倉」が開催されます。恒例になった泥んこになっての田植え体験で、子どもも大人もゴールデンウィークの思い出を作ろうというものです。
 また、楢葉町の田んぼでも5月18日(土)に田植えが行われる予定です。

市川さんは、2020年に浜通りに30万人を呼び込むという大きな目標を持っておられます。今年のプロジェクトがいよいよ始動します。

[参考]
 福島田んぼアートプロジェクト
  http://fukushima-tanboart.com/
 2019田んぼアート田植え体験 in 四倉
  https://www.facebook.com/events/2260146967375125/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/br/

-菊池勇夫『飢饉』 (2000.7、集英社新書) -
 https://amzn.to/2Pgpus1

本書は、1950年青森県生まれで日本近世史・北方史を専門とする著者が、日本における飢饉の歴史を明らかにし、その発生メカニズムや未然に防ぐための社会システムのあり方等を論じた書です。

「日本書記」以来、数年に一度、あるいは毎年のように日本のどこかで飢饉は発生していたとのこと。
 古代から中世にかけては冷害や虫害を原因とする飢饉が頻発し、数万人という餓死者の数や「人肉食」等の凄惨な状況も記録されています。
 江戸時代に入って飢饉はさらに大規模化し、数十万人の犠牲者を出すようになりましたが、著者は、その背景に市場経済の全国的な浸透があると見ています。
 つまり、地方・農村のすみずみにまで商品貨幣経済が浸透し、全国的な市場経済に組み込まれた結果、領内の米が江戸・大坂の商人に根こそぎ買い集められてしまう等の事態が生じたため、わずか1年の凶作でも多くの餓死者が出るようになったというのです。
 また、大豆等の商品作物の需要が増加し、山地を開墾し焼き畑で生産されるようになった結果、イノシシなど鳥獣害が深刻になったという状況もあるそうです。

市場経済下では、食料を含む商品は生産地から消費地に流れます。そのため、飢饉の被害は農村地域に集中することとなり、餓死や疫病の蔓延の他、「身売り」「間引き」「人肉食」といった惨状にもつながったのです。
 さらには、江戸など消費地における食糧不足は下層民にしわ寄せされ、打ちこわし等が頻発するようになりました。

著者は、飢饉を単なる歴史上の出来事として片付けてはいません。
 経済のグローバル化が進行し、食料が国境を越えて行き来する現代においては、江戸時代の日本列島に起こっていた飢饉が、世界的規模で起こりかねないことに警鐘を鳴らしています。

「都市生活者には生産者のことが見えにくくなっている。外国であればなおさらである。金任せの食料の大量買付けがどこかで飢餓をつくりだしているのではないか」と問題提起し、
 「国際化の時代、そのようなことに想像力を働かせていくことが最低限の知的営みというものであろう。人災を生み出さないために、モラルが問われなければいけない」と訴えています。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ 吉田裕先生講演会「兵士の目線で戦場を見る」[4/7]
 http://food-mileage.jp/2019/04/07/blog-186/

○ 寮美千子さん講演会「詩が開いた心の扉」[4/13]
 http://food-mileage.jp/2019/04/13/blog-187/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 第31回 森の読書会、森のブックカフェ
 日時:4月27日(土)読書会10:00~12:00、ブックカフェ13:00~16:00
 場所:森の食卓(JR吉祥寺駅から徒歩10分)
 主催:森の食卓、森の読書会
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/2359479934286115/
 https://www.facebook.com/events/2834766299874705/

○ 2019年第1回・スカイファームクラブ
 日時:4月27日(土)11:00~14:00
 場所:ちよだプラットフォームスクウェア屋上菜園(千代田区神田錦町)
 主催:NPO農商工連携サポートセンター
 (詳細、お問合せ先等↓)
 http://blog.canpan.info/noshokorenkei/archive/520

○ 2019田んぼアート田植え体験 in 四倉
 日時:5月5日(日)10:00~15:00
 場所:ワンダーファーム隣(福島・いわき市四倉町)
 主催:: 福島田んぼアートプロジェクト
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/2260146967375125

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*舞麗児忽々の今号のコツコツ小咄。
「では問題です。パリで最も美しい建物は?」
「ノートルダム寺院」
「大正答(大聖堂)!」

フランス国民、パリ市民の皆様の悲嘆は、想像するに余りあります。比べることはできませんが、例えば目の前で東大寺大仏殿が焼失したら・・・。
 1000年以上の歴史のある建物、仮に数100年かかっても再建されることが望まれます。

コツコツ小咄(まとめ)は拙ウェブサイトにも掲載してあります。
 http://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号 No.167は5月5日(日)[和暦 卯月朔日]の配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
 いつもありがとうございます。
  http://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
  https://archives.mag2.com/0001579997/
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