【メルマガ】F.M.Letter No.167

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.167◇
 2019年5月5日(日)[和暦 卯月朔日]発行
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◆ F.M.豆知識  飢餓人口の地域別推移
◆ O.カレント  田中瑛子さん(森の読書会)
◆ ほんのさわり 生源寺眞一『(新版)農業がわかると社会のしくみが見えてくる』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 和暦では卯月に入りました。「花と鳥の月」、あるいは苗を「植える月」。
 そして元号は令和へ。どんな時代になるのでしょうか。私たちは、どのような時代を作っていくのでしょうか。
 時の流れを体感するため、本メルマガは和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して考えるヒントになるデータを、コツコツと紹介していきます。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/mame/

-飢餓人口の地域別推移-

新時代を迎えて世の中は祝賀ムードですが、あえて、現下の食をめぐる深刻な状況を紹介します(前回からの『飢饉』つながりです)。
 昨年(2018年)9月、国際連合の食糧農業機関(FAO)は、毎年恒例の「世界の食糧安全保障と栄養の現状に関する白書」の2018年版 (The State of Word Security and Nutrition in the Word 2018)を公表しました。

これによると、2017 年における世界の飢餓人口(注)は 8億 2,080 万人。
 2005年には 9億 4,500万だった人飢餓人口は減少傾向で推移し、2014年には 7億 8,370万人に減少したのですが、その後は増加に転じているのです。
 世界人口に占める飢餓人口の割合も、同様に、2005年には 14.5%だったのが 2015年に 10.6%にまで低下した後に上昇に転じ、2017年は 10.9%となっています。実に全世界の人口の 9人に 1人は、必要な栄養を摂取できていないのが現実です。

リンク先のグラフは、飢餓人口の推移を地域別に示したものです。
 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2019/05/167_kiga.pdf

飢餓人口が最も多い地域はアジアで、5億1,510万人となっています。インド、バングラデシュなど南アジア地域等における飢餓は依然として深刻ですが、それでも概ね減少傾向で推移しています。
 一方、アフリカの飢餓人口は 2億 5,650万人となっていますが、その増加の程度が大きくなっています。サブサハラ(サハラ砂漠以南)地域での増加が著しく、3~4人に1人が飢えている状況にあります。
この結果、世界の飢餓人口に占めるアフリカの割合は、2005年の 20.7%から2017年には 31.3%へと上昇しているのです。

報告書では、飢餓人口の要因を世界的な景気悪化、アフリカ等における貧困や不安定な社会情勢等にあるとし、また、気候変動や異常気象がさらに食糧安全保障を脅かす恐れがあると指摘しています。
 さらに、国連の持続可能な開発目標(SDGs、2030年までに飢餓を撲滅)についても、これらの状況が改善されなければ達成は困難と警鐘を鳴らしています。

(注)
 原典では栄養不足人口(Undernourished People、体重と健康を維持するのに必要な栄養量が摂取できていない人口)とあります。

[出典等]
 FAO“The State of Food Security and Nutrition in the World, 2018”
  http://www.fao.org/3/i9553en/i9553en.pdf
 国連WFPニュース「世界の飢餓人口の増加は継続」
  http://ja.wfp.org/news/news-release/180912

◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
 食や農の分野について、先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/pr/

-田中瑛子さん(森の読書会)-

JR吉祥寺駅から徒歩10分ほど、井の頭公園に隣接する素晴らしい場所にコミュニティスペース「森の食卓」はあります。ここでは様々なイベント、ワークショップ、セミナー等が開催されていますが、その一つが「森の読書会」です。

主催者は田中瑛子さん。
 もともと読書が好きだった瑛子さんは、社会人になって「もっと色んなジャンルの本について勉強したい」「会社以外の人間関係を大切にしたい」との思いから、各地の読書会に足を運ばれるようになりました。そして、その面白さを実感するうち「もっと近くで読書会開催している場所があればいいのに」と思うようになられたそうです。
 その思いを実現するため、自分で読書会を主催されるようになったのが2016年3月のことでした。以後、現在までほぼ月1回のペースで続けられています。

「立場や年齢層も様々な参加者同士、本を通して会話が生まれ、他の参加者がどのような方かを知ることもできる。同じ会は2度とありません。読書の好きな方なら、誰でも気軽に来られる場所でありたい」等と、瑛子さんは語っておられます。

その瑛子さんは、学生時代からアジア等を旅しておられました。最近は特にアフリカに魅かれているそうで、ボランティア等として2度ほど訪ねられています。
 実際にアフリカに行って、本当に様々なことを見て感じてきたと語る瑛子さん。多様性の大切さを実感されたことが、森の読書会の運営にも反映されているのかも知れません。

[参考]
 森の読書会
  http://morinodokushokai.main.jp/
 「ごく普通のOLがバックパッカーになり、アフリカにたどり着いた理由」(連載第1回)
  http://all-about-africa.com/eiko-tanaka1-1/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
  http://food-mileage.jp/category/br/

-生源寺眞一『(新版)農業がわかると社会のしくみが見えてくる 高校生からの食と農の経済学入門』(2018.4、家の光協会) -
  http://www.ienohikari.net/book/9784259518660

著者は1951年愛知県生。農林水産省試験場研究員、東京大学農学部教授・同学部長等を経て、現在は今年度から開学した福島大食農学類の初代学類長を務めておられます。また、日本農業経済学会長、日本学術会議会員等を歴任されるなど、日本の農業経済学の分野における第一人者です。

本書は、2007~08年にかけて、世界的な食料価格の高騰や中国製冷凍ギョーザによる食中毒事件の発生など食料と農業をめぐる大きなニュースが相次いで報じられた時に、世界の農業、日本の農業、そして毎日の食生活がつながっていることを、分かりやすく「10代後半の若い君たちに向けたメッセージ」として書かれたもの。
 それが10年後に、最新のデータや知見等を元に「新版」として改めて刊行されたのです。

著者は何度も、農業や食料をめぐる問題は非常に複雑である(一筋縄ではいかない)と何度も強調しています。

例えば世界の飢餓の問題についても、途上国=農業国、先進国=脱農業国という常識に反して、食料の輸出超過国は北米、EU等であり、アジアやアフリカは純輸入国であるという事実が示され、その背景には、アフリカの驚異的な人口増加、先進国と途上国の間での農業生産性の格差等があり、さらには先進国の農業保護政策が途上国の農業の発展を阻害している面があることが説明されています。いずれもデータに基づいた記述です。

ほかにも食料自給率や食料安全保障をめぐる議論、必需品であって贅沢品でもあるという食料の二面性、土地に恵まれない日本の農業は本当に弱いのか、農業の持つ多面的機能と市場経済の限界など、農業や食料をめぐる複雑な議論が分かりやすく解説されています。

著者が重視しているのは、できるだけ広い視野に立って考える姿勢。途上国の現状、消費者や納税者の立場、将来の世代の福祉など、複眼的な接近が必要としています。
 そして最後に、「農業とは距離のあるところにある若者にも手に取ってもらい、食料と農業についてバランスのとれた知識と自分なりの意見を持って欲しい」と訴えています。

ちなみに、予備知識がほとんどない人を対象とした分かりやすい入門書ながら、内容としてはかなり高い水準のものも含んでおり、私も何度も目からうろこが落ちる思いがしました。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ 居酒屋ゆるぎ「巻き物の一夜」編@神田・なみへい[4/23]
 http://food-mileage.jp/2019/04/23/blog-188/

○ 共奏キッチン@仙人の家 #8[4/27]
 http://food-mileage.jp/2019/04/27/blog-189/

○ 第31回 森の読書会[4/30]
 http://food-mileage.jp/2019/04/30/blog-190/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 奥沢ブッククラブ第45回 ロアルド・ダール『あなたに似た人』
 日時:5月13日(月)18:30~21:00
 場所:シェア奥沢(東京・自由が丘)
 主催:: 奥沢ブッククラブ
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/610895409376277/

○ もんぺ製作所展示受注会
 日時:5月18日(土)12:00~20:00、19日(日)12:00~19:00
 場所:青と夜ノ空(東京・吉祥寺)
 主催:もんぺ製作所(新潟・上越市大賀)
 (詳細、お問合せ先等↓)
 http://blog.monpeseisakusho.com/?eid=2

○ 上越の棚田へ田植えに行こ~
 日時:5月25日(土)7:00~26日(日)18:00
 場所:新潟・上越市大賀集落
 主催:大賀米づくり
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/2138433002878682/

○ 第32回 森の読書会、森のブックカフェ
 日時:5月26日(土)読書会10:00~12:00、ブックカフェ13:00~16:00
 場所:森の食卓(JR吉祥寺駅から徒歩10分)
 主催:森の食卓、森の読書会
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/552571421933876/
 https://www.facebook.com/events/421580102009485/
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*舞麗児忽々の今号のコツコツ小咄。
「何でも経費で落としてたら、会社は傾くに決まってるでしょう。違いますか?」
「左様(斜陽)に存じます」

 この週はなぜか太宰治特集でした。
 コツコツ小咄(まとめ)は拙ウェブサイトにも掲載してあります。
 http://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号 No.168は 5月19日(日)[和暦 卯月十五日]の配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
 いつもありがとうございます。
  http://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
  https://archives.mag2.com/0001579997/
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
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 ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
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