◇フード・マイレージ資料室 通信 No.184◇
2020年1月9日(木)[和暦 師走十五日]発行
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◆ F.M.豆知識 減速する世界の経済成長率
◆ O.カレント 石井一也先生(香川大)
◆ ほんのさわり 斎藤幸平(編著)『未来への大分岐』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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カレンダーは2020年を迎えました。本年もよろしくお願いします。
新年早々、世界にはキナ臭さが漂うなか、今号では世界の資本主義について考えてみました。
本年も時の流れを体感するため、本メルマガは和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信します。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。
(過去の記事はこちらにも掲載)
http://food-mileage.jp/category/mame/
-減速する世界の経済成長率-

昨年(2019)10月、国際通貨基金(IMF)は世界経済見通しを改訂し、2019年の世界の経済成長率を3.0%と予測しました。7月時点から0.2ポイント下方修正され、金融危機直後の2009年以来10年ぶりの低い水準となりました。
ちなみに3%は好不況の境目とされる数値です。
リンク先の図184は、1980年以降の世界の国内総生産(GDP、名目)と、実質経済成長率の推移を図示したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2020/01/184_GDP.pdf
これによると、世界のGDPは2000年頃まで順調に右肩上がりで推移し、さらに2000年代後半には年5%近い高い成長を続けました。
これは、特に中国など新興国・途上国の高い成長率に支えられたもので、アメリカ、日本など先進国の成長率は長期的に低下傾向にあります。
ちなみに日本については、1990年頃までは高い成長を続けていましたが、現在は世界の中でも最も低い成長率となっています。
そして2009年にはリーマンショックを始めとする金融危機が発生し、世界の経済成長率は大きく落ち込み、その後、現在まで低迷を続けています。
この要因について、IMFは、米中の貿易戦争の影響で世界的に貿易や投資が減速していること、先進国については高齢化や生産性の伸び悩み等の構造的要因があること、世界の経済成長を牽引してきた中国など新興国についても個人消費の低迷や緊縮財政が影響していること等と分析しています。
しかし、より構造的・根本的な要因として、資源・環境制約が顕在化し、過去のような過度に化石資源に依存した経済成長が望めなくなっているという事情があるものと思われます。
[データ出典]
IMF“World Economic Outlook Database October 2019”
https://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2019/02/weodata/index.aspx
◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。
(過去の記事はこちらにも掲載)
http://food-mileage.jp/category/pr/
-石井一也先生(香川大)-

石井一也先生は1964年東京・足立区生まれ。
京都大学大学院経済学研究科博士後期課程を修了し、スタンフォード大学経済学部客員研究員等を経て、現在は香川大学法学部教授(博士(経済学))。
経済学を専門とされる石井先生の主な研究対象は、マハートマ・ガンディー(1869~ 1948)です。
ガンディーは、非暴力・不服従運動を通じて旧宗主国・イギリスからの独立を指導した「インド独立の父」で、経済学者ではありません。
しかし石井先生は、ガンディーの経済思想の中に、これからの人類の指針となり得る重要なヒントがあると考えておられます。
ガンディーは、当時のイギリス工業を中心とした世界経済の再編成を激しく批判しました。機械は大きな罪であるとしてインドの工業化に反対し、チャルカー(手紡ぎ車)運動を推進します。
これは、綿布の製造工程の全てを手作業化することによって労働機会を分配し、貧者救済を目指したものです。先生の試算によると、機械製造に比べて生産性は劣る一方、63倍の雇用を生み出すこととなるそうです。
また、ガンディーは、アダム・スミス以来の経済学の基礎となっている「人間の利己心」は、そもそも克服されるべきとしているそうです。
ガンディー思想を支える「自立共生(コンヴィヴィアリティ)」とは生産性とは正反対の価値で、自立的でありながら他者を尊重し助け合う倫理とのこと。
さらに、一国が他国を支配することを許すような経済学は「非道徳」であるともしているそうです。
石井先生は、もはやアマルティ・センらが主張するような全世界的な人間開発と経済成長による繁栄は、地球の資源と環境の制約の前に事実上実現不可能であるとし、ガンディーの思想にあるように、生態系の枠内において、資源節約的な技術により簡素な社会を目指すことが必要ではないかと問題提起されています。
そして、人類が生き残るためには「人間の身の丈の経済」へと大きく旋回する以外にないと主張されているのです。
去る1月5日(日)に開催された脱成長ミーティング公開研究会において、先生は報告の最後に、一番伝えたいというガンディーの次の言葉を紹介して下さいました。
「地球は全ての人々の必要を満たすのに十分なものを提供するが、全ての人の貪欲を 満たすほどのものは提供しない」
[参考]
石井一也『身の丈の経済論-ガンディー思想とその系譜』(2014.3、法政大学出版会)
http://www.h-up.com/books/isbn978-4-588-60335-8.html
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。
(過去の記事はこちらにも掲載)
http://food-mileage.jp/category/br/
斎藤幸平(編著)『未来への大分岐-資本主義の終わりか、人間の終焉か?』(2019.8、集英社新書)-
https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0988-a/

1987年生まれの編著者(ベルリン・フンボルト大学哲学科修了、大阪市立大学大学院・経済学研究科准教授)によると、人類は今、胸元に拳銃をつきつけられているような危機(政治・経済の悪化、社会の閉塞感、気候変動等)にあり、その根本原因は資本主義そのものにあるとのこと。
この「大分岐の時代」にオルタナティブな未来を探るため、現在、世界で最も注目されている3人の知識人との対話を行ったのが本書です。
マイケル・ハート(政治哲学者、デューク大教授)との対話では、「コモン」に焦点が当てられます。
これは資本による支配(私的所有)の対極にある概念で、地球というエコシステムをコモンとして把握し、民主的に管理するための新しい仕組み(パラダイム)作りの可能性について語り合っています。
そして、そのオルタナティブの胎動は、既に世界各地で始まっているとのこと。
マルクス・ガブリエル(哲学者、ボン大学教授)との対話においては、ポストモダンの「相対主義」や「社会構築主義」は普遍性を拒絶し分断を生み出すものとして危険であるとし、事実を真摯に受け止めることを基本とする「新実在論」の重要性が強調されています
ポール・メイソン(経済ジャーナリスト)との対話では、情報技術の発展は利潤率を低下させることを通じて産業資本主義を終焉させ、その後は水平的なネットワーク等に基づく持続可能な協働型経済(ポストキャピタリズム)に移行すると予測されています。
一方、「サイバー独裁」や「デジタル封建主義」の脅威を克服するためには、ヒューマニズムに基づく技術の管理が必要であることも強調されます。
3人との対話を踏まえた編著者の結論は、かなりラディカル (根源的)なものです。
すなわち、既存の市場や国家のシステム、あるいはエコな製品を選ぶといった個人の消費活動のレベルでは危機を克服することは不可能であるとし、気候正義を実現するための「エコロジカル社会主義」を処方箋として提示しているのです。
そして「大分岐の時代だからこそ、ニヒリズムを捨てて、民主的な決定を行う集団的能力を育む必要がある」と、社会運動の重要性を強調しています。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 森の食卓、仙人の家、そして神楽坂の夜[12/27]
https://food-mileage.jp/2019/12/27/blog-245/
○ 車座座談会&忘年会:ヒーロー、ヒロイン達の集い[12/30]
https://food-mileage.jp/2019/12/30/blog-246/
▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。
○ 逢坂泰精「空が青いから白をえらんだのです」ライブ&トーク
ゲスト:寮美千子
日時:1月10日(金)19:00~21:00
場所:WACCA IKEBUKURO(東京・東池袋1)
主催:奈良少年刑務所を宝に思う会ほか
(詳細、お問合せ先等↓)
https://20200110live.peatix.com/
○ 被災地見学【岩手県陸前高田市周辺】(満席)
日時:1月11日(土)~12日(日)
場所:岩手・陸前高田市周辺
主催:Re:来人
(詳細、お問合せ先等↓)
https://www.relighttohoku.com/top/rikutaka/
○ 第13回 勉強会
日時:1月14日(月)19:00~21:00
場所:中央区立環境情報センター(東京・京橋3)
主催:銀座農業コミュニティ塾
(詳細、お問合せ先等↓)
https://www.facebook.com/events/964302467258250/
○ 第10回マチモノ樹木勉強会
日時:1月19日(土)9:30~12:00
場所:成城三丁目緑地公園(東京・世田谷区)
主催:街の木ものづくりネットワーク(マチモノ)
(詳細、お問合せ先等↓)
https://www.facebook.com/events/1745700208895821/
○ 奥沢ブッククラブ第51回 「ヴェニスに死す」
日時:1月20日(月)19:00~21:00
場所:シェア奥沢(東京・自由が丘)
主催:奥沢ブッククラブ
(詳細、お問合せ先等↓)
https://www.facebook.com/events/2503870539861755/
○ 千葉の農家さん応援企画! 農業ビジネス研
「旬で鮮度の良い野菜への熱い思いと料理の仕方を聴きながら、美味しく食べる」
日時:1月23日(木)19:00~21:45
場所:Bar Cuore(東京・池袋西口)
主催:農業情報総合研究所
(詳細、お問合せ先等↓)
https://m-motegi.at.webry.info/201912/article_2.html
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
「私にとって、今年は、晴天続きと思われます」
「そうなんですか」
「転機(天気)の年ですから」
本年3月、筆者は還暦と定年を迎えます。
コツコツ小咄(まとめ)は拙ウェブサイトにも掲載してあります。
http://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.185は1月25日(土)[和暦 睦月朔日]、和暦でも新年を迎える日に配信する予定です。
より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
いつもありがとうございます。
http://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也 (購読(無料)登録はこちらから)
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
発行システム:『まぐまぐ!』
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