【メルマガ】F.M.Letter No.194

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.194◇
 2020年6月6日(土)[和暦 閏卯月十五日発行
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◆ F.M.豆知識  第一次産業のシェアと感染者密度
◆ O.カレント  コロナ禍と世界の穀物需給
◆ ほんのさわり 山本太郎『感染症と文明』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 昨日から二十四節季の芒種(ぼうしゅ)に入りました。米麦などトゲのある穂をもつ穀物の種をまく季節。梅雨入りも間近です(18時現在、東京地方はものすごい雷雨に見舞われています)。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/mame/

−第一次産業と感染者密度−

去る5月25日(月)、新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態措置は解除されましたが、現在も東京都や北九州市では毎日新たな感染者が確認されており、油断のできない状況が続いています。
 感染拡大防止のためには、いわゆる「三密」を避けることが重要です。
 現に人口密度が高い都道府県ほど感染者数が多いことは本メルマガNo.191(4/23配信)でも紹介しました。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2020/04/191_kansen.png

 また、このようななか、農林業や農山村地域を見直す動きも出てきています。
 リンク先の図194の横軸は、県内総生産に占める第一次産業(農林漁業)のシェアを表したもので、第一次産業の経済的なシェアは全国平均では1.1%程度ですが、青森や宮崎・鹿児島では5%を上回っています。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2020/06/194_itiji.pdf

 一方、縦軸は感染者密度(100平米当たりの新型コロナウイルスの感染者数)で、全国平均では4.4人ですが、東京都(241人)、大阪府(94人)、神奈川県(57人)は突出して多くなっています。
 なお、グラフは両軸とも対数目盛で表示しており、明らかに負の相関(右肩下がりの形)を示しています。

 むろん、このグラフだけから、農林漁業が新型コロナウイルス感染拡大を抑制する効果があるといった因果関係を説明することはできません。単に人口密度が低い都道府県では感染者数が少なく、同時に比較的農林漁業が盛んであることを示しているに過ぎないのかも知れません。
 しかし、感染症というリスクと一次産業や農村地域の価値との関係という視点については、引き続き大事にしていきたいと思います。

[資料]
 内閣府「県民経済計算」
 https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/sonota/kenmin/kenmin_top.html

 厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(2020年6月4日版)」より
 https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000636974.pdf

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。
(過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/pr/

−コロナ禍と世界の穀物需給−

(下記の農水省HPより)

日本は食料の多くを輸入に依存している(2018年度の食料自給率はカロリーベースで37%、生産額ベースで66%)ため、食料の安定供給面には様々なリスクがあります。
 例えば、短期的には干ばつ等の自然災害、輸出国の政情不安や港湾等でのストライキ等、長期的・構造的には地球温暖化等の気候変動、水需給のひっ迫、人口増加に伴う食料需要増加等があります。
 また、新たな感染症の発生や蔓延も大きなリスク要因であり、今般の新型コロナウイルス禍のなか、多くの人が日本の食料供給に不安を覚えるのも当然です。

 実は2008年頃、世界の穀物等の価格は大きく上昇し、国内でも小麦粉やマヨネーズ等が値上げされるなど大きな影響を及ぼしたことがありました。
 この時は世界的な干ばつ等により世界の穀物需給がひっ迫し、期末在庫率は17%程度まで大幅に低下していました。また、原油価格の高騰、とうもろこしのエタノール向け需要の急増もあり、原油や穀物など商品市場に多額の投機資金が流入したという事情もありました。
 さらに食料貿易額の約12%を占める31カ国が穀物等の輸出規制を行ったことも国際価格高騰に拍車をかけ、トウモロコシは8ドル/ブッシェルという過去最高水準にまで上昇したのです。
 この時と比べると、現在は豊作が続いたことから穀物需給は緩和しており(期末在庫率は30%程度)、原油・エタノール需要も低迷し、輸出を規制している国は16カ国(食料貿易額の約2%)と限定的で、とうもろこし価格も3ドル/ブッシェル程度の水準で推移しています。

 このような状況から、当面は食料の安定供給に支障が生じるような事態は想定し難いと思われます。
 しかしながら、この機会に、国内(さらにはより身近な地域)において食料供給力を維持・確保していくことの重要性を再認識しておく必要があると考えます。

[参考]
 我が国の穀物等の輸入の現状(農林水産省HP)
 https://www.maff.go.jp/j/saigai/n_coronavirus/pdf/yunyu.pdf

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/br/

−山本太郎『感染症と文明−共生への道』(2011.6、岩波新書)−
 https://www.iwanami.co.jp/book/b226101.html

著者は1964年生まれの医師、博士(医学、国際保健学)。長崎大学熱帯医学研究所教授で、アフリカやハイチでは感染症対策の実務にも従事された方です(著名な政治家とは同姓同名の別人)。
 今回のコロナ禍の発生と対応策を予言したかのような書です。

 「豆知識」欄では第一次産業のシェアが大きい都道府県ほど感染者密度が低いというデータを紹介しましたが、本書によると、人類史における感染症は農耕の開始から始まったそうです。
 つまり、農耕による生産力の拡大が人口増加と定住(「密」)を実現し、また、野生動物の家畜化は動物に起源をもつ感染症の増加につながったとのこと。

 また、大航海時代の始まり(旧世界と新世界の接触)、奴隷貿易と植民地主義、世界大戦等は、天然痘やマラリア等の感染症の世界的な拡大につながりました。
 ちなみにペニシリンが開発された後の第二次世界大戦は、歴史上、感染症による死亡者数が銃弾による戦死者を下回った初めての戦争だったとのこと。
 さらに、開発(森林の伐採や大規模ダムの建設)が感染症を拡大させた各地の事例も紹介されています。

 また、患者が元気なほど感染機会が増大するため、ウイルスは一般的には長期的に軽症化の方向への淘汰圧を受けると考えられる一方、第一次大戦下のスペイン風邪は、第二波の方が被害をもたらしたとのこと。
 そして近年、エボラ出血熱やSARSなど新たな感染症が出現するなか、著者は、ウイルスを撲滅しようとする努力は破滅的な悲劇の幕開けを準備することになるかも知れないと危惧し、ウイルスと「共生」するという考え方が必要としています。正に時宜を得た提言です。

 もっとも、「共生」それは決して「心地よいとは言えない」妥協の産物で、完全で最終的なものにもなり得ないとのことです。
 ちなみに本書では、17世紀にロンドンでペストが大流行した時、学生だったニュートンは故郷に疎開し、その間に微積分法や万有引力の概念を発見したというエピソードも紹介されています。
 この「創造的休暇」に比べると、私の外出自粛期間は何だったんでしょうか。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 〇銀座農業コミュニティ塾 ステイホーム編[6/2]
 https://food-mileage.jp/2020/06/02/blog-268/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ オンライン市民科学講座
 シリーズ「生活のなかの科学技術リスク」(第1期)全13回
 日時:2020年4月23日(木)19:00〜最長21:00、
   〜7月16日(木)
 場所:オンライン(ZOOM)
 主催:市民科学研究室
(詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.shiminkagaku.org/online_csijseminar_2020/

○ 奥沢ブッククラブ第56回「ボヴァリー夫人」
 日時:2020年6月8日(月)19:00〜21:00
 場所:オンライン(ZOOM)
 主催:奥沢ブッククラブ
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/275086870329191/

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
「感染拡大が収まらないね。どんな未来になるんだろう」
「大丈夫、望み(のぞみ)も光(ひかり)もあるから。新感染(新幹線)症だけに」

 コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも写真入りで掲載してあります。
 http://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.195は6月21日(日)[和暦 皐月朔日]に配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
 いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。

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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
 発行者:中田哲也
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