【メルマガ】F.M.Letter No.295-pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.295◇
  2024年7月6日(土)[和暦 水無月朔日]
────────────────────
◆ F.M.豆知識  出生率が高い市区町村の特徴
◆ O.カレント  なぜ沖縄県の出生率は高いのか
◆ ほんのさわり 太田昌秀『決定版・写真記録 沖縄線』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
────────────────────
 二十四節気では小暑ですが、梅雨明け前から猛暑が続いています。去る6月23日は沖縄戦から79年目の「慰霊の日」でした。今号は前号に引き続き出生率の地域差に着目し、さらに出生率が高い沖縄にフォーカスします。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−出生率が高い市区町村の特徴−

【ポイント】
 出生率上位20位の市区町村は、人口が過度に集中していない、単独世帯が少ない、農林漁業のウェイトが大きい等の特徴があります。

本年6月の厚生労働省の公表によると、1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標となる「合計特殊出生率」は、2023年で1.20と過去最低を更新しました。これと市街化との関連を都道府県別にみたのが前号の分析でした。
 https://food-mileage.jp/2024/07/03/mame-294/

今号では、本年4月に公表されている2022年の市町村別の出生率を用いて、上位20市区町村の特徴を様々な指標から明らかにすることを試みました。リンク先の図295は、各種指標について、出生率の上位20市区町村と、全国平均、下位20市区町村を比較したものです(上位/下位の具体的な市区町村名等は図の脚注をご覧ください)。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/07/295_shusshou2.pdf

これによると、出生率の高い市区町村では市街地(人口集中地区)の人口の割合は低く、前号の分析結果と同じ傾向となっています。また、世帯員が一人の単独世帯の割合は相対的に低くなっています。
 一方、出生率の高い市区町村は、耕地面積の割合、農家の割合、一次産業就業者の割合からみて、農林漁業のウェイトが大きいという特徴があります。さらに、犯罪数は少ない傾向がみられます。
 なお、出生率の高い市区町村では、1戸当たり平均の経営耕地面積は全国平均よりも小さく、相対的に「小農」が多いことが伺われます。

 このように、各種指標を用いて、出生率の高い市区町村を全国、低い市区町村と比較することによって、少子化対策のヒントを得ることができるかも知れません。

[データの出典]
総務省「社会・人口統計体系データベース」を用いて作成。
 https://www.e-stat.go.jp/regional-statistics/ssdsview/municipality
1戸当たり平均経営耕地面積は農林水産省「農林業センサス」(総農家)から作成。
 https://www.maff.go.jp/j/tokei/census/afc/2020/030628.html
 なお、上位/下位市区町村については、厚生労働省「平成30年〜令和4年 人口動態保健所・市区町村別統計の概況(人口動態統計特殊報告」(p.3)による。
 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/other/hoken24/dl/gaikyou.pdf

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−なぜ沖縄県の出生率は高いのか−

出典:沖縄県HP「沖縄県の母子保健 資料」(2022年)

【ポイント】
 沖縄の出生率が高い要因には様々なものがあるとされていますが、太平洋戦争で子どもも含めて多くの犠牲者を出したという歴史的事実も背景にあるのではないでしょうか。

2023年の全国の合計特殊出生率が1.20と過去最低を更新する中、沖縄県は1.60と都道府県の中で最も高い数値となっています(ちなみに最低は東京都の0.99)。
 沖縄県の高い出生率については、様々な要因があるとされています。
 まず、沖縄には多くの子どもを持つことが望ましいとする価値観が根付いていることです。地域に地縁・血縁的な共同社会が残っていることが、子育てしやすい環境につながっているとの指摘もあります。また、男子が家を継承するという家族観が強く、男子が生まれるまで産児を制限しないという事情もあるそうです。

さらには、若年で妊娠・出産する女性が多く、また、結婚前に子どもを授かることへの社会の寛容さがあるとも言われています。しかしこのことは、一方で子ども(母子)の貧困問題を深刻化させ、若年出産した母親がDVの犠牲となっている等の問題を引き起こしていることは、例えば教育学者・作家の上間陽子さんの『海をあげる』等でも描かれている通りです。

なお、今後、価値観や社会経済状況が変化することにより、沖縄の出生率が他の都道府県の水準に近づいていく可能性があるとの見方もあります。
 もう一つ、沖縄の高い出生率の背景には、太平洋戦争で子どもも含めて多くの犠牲者を出したという歴史的事実があるのではないでしょうか。この惨劇の体験が、命を授かることへの畏敬の念を育んでいるのではないかと思われるのです。

[参考]
厚生労働省「令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」
 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai23/dl/gaikyouR5.pdf
山内昌和ほか「沖縄県の合計出生率はなぜ本土よりも高いのか」(2020)
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/grj/93/2/93_930202/_pdf/-char/ja
上間陽子さん『海をあげる』(ほんのさわり)
 https://food-mileage.jp/2021/08/01/hon-222/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−太田昌秀『決定版写真記録 沖縄線』(2014/5、高文研)−
 https://www.koubunken.co.jp/book/b202015.html

【ポイント】
 沖縄戦では、動員された学徒を含む多くの子どもたちが命を落としました。その惨劇の記憶が、現在も子どもを「宝」として大切にする想いにつながっているような気がしてなりません。

去る2024年6月23日(火)は、79年目の「沖縄 慰霊の日」でした。
 太平洋戦争末期の沖縄戦では、子どもを含む住民を巻き込んだ激しい地上戦で20万人を超える人(県民の4人に1人)が命を落としたとされています。

この日、改めて手に取ったのがこの写真集でした。
 琉球大学名誉教授、沖縄県知事(2期)、参議院議員を務めた著者は、1945年3月、沖縄師範学校2年(19歳)の時に学徒から構成される「鉄血勤皇隊」に動員されます。沖縄戦最後の激戦地となった摩文仁沖の海中で意識を失いましたが、九死に一生を得て捕虜となり、生還します。
 このような苛烈な体験、多くの学友を失った無念さが、著者が生涯をかけて「戦争の悲惨さ、平和の尊さ」を訴え続ける原動力となったのです(2017年没)。

本書は、著者が述べ20年間をかけてアメリカの国立公文書館に通い続けて収集した写真を中心に構成されています。
 「戦場に出た学徒隊」と題する章では、12の男子中等学校と10の女学校の生徒たち(14歳から17歳)が、法的根拠もないまま戦闘に駆り出され、1100名以上が犠牲となったというデータも紹介されています。
 捕虜となって米兵の尋問を受ける学徒たちのあどけない表情、サンゴ礁の海岸を歩く女子学徒などの写真が、胸を打ちます。

沖縄戦では、学徒を含む多くの子ども達が命を落としました。その惨劇の記憶が、子どもを「宝」として大切にするという、現在の沖縄の人たちの心情と行動につながっているような気がしてなりません。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 生活クラブ神奈川 職員研修[6/24]
 https://food-mileage.jp/2024/06/24/blog-514/

○ 夜パンカフェ、川崎平右衛門フェスタ・プレイベント[6/25]
 https://food-mileage.jp/2024/06/25/blog-515/

○ エコキッズプラン「地産地消/フード・マイレージ」(東久留米市)[6/29]
 https://food-mileage.jp/2024/06/29/blog-516/

○ corot 見学とナチュールでの食事会(埼玉・所沢市山口)[7/1]
 https://food-mileage.jp/2024/07/01/blog-517/

○ ゆるみと脱成長(高坂 勝さん おはなし会)[7/2]
 https://food-mileage.jp/2024/07/02/blog-518/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

○ 川崎平右衛門フェスタ2024 in ところさわ
 日時:7月14日(日)13:00〜16:30
 場所:ミューズ管理棟5F(埼玉・所沢市並木1)
 主催:川崎平右衛門フェスタ実行委員会等
 (詳細、問合せ等↓)
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/06/2024_festa.pdf

○ おいしい未来をつくる読書会 #1
  課題本:ジェシカ・ファンゾ『食卓から地球を変える』
 日時:7月21日(日)20:00〜21:30
 場所:オンライン
 主催:おいしい未来をつくる読書会
 (詳細、問合せ等↓)
 https://foodsystems4peace-1.peatix.com/

────────────────────
*米令寺忽々のコツコツ小咄。
 ウクライナとガザでの戦闘が終了するまで自粛中。長いお休みとなっています。過去のアーカイブは以下に掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.296は7月20日(土)[和暦 水無月十五日]に配信予定です。
 正確でより役に立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信すれば筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』(今年は北斎手帳)を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
────────────────────
◆ F.M.Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
 (購読(無料)登録はこちらから)
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
 発行システム:『まぐまぐ!』
  https://www.mag2.com/
 バックナンバー
  https://food-mileage.jp/category/mm/
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
  https://food-mileage.jp/
 ブログ「新・伏臥慢録〜フード・マイレージ資料室から〜」
  https://food-mileage.jp/category/blog/