【メルマガ】F.M.Letter No.321-pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.321◇
 2025年7月25日(金)[和暦 閏水無月朔日]
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◆ F.M.豆知識  除去土壌等を保管している仮置場等の箇所数の推移
◆ O.カレント  中間貯蔵施設とは
◆ ほんのさわり 門間好春『未来へのバトン』
◆ 情報ひろば  第3回「食と農の未来フォーラム」(8月26日予定)のご案内
        ブログ更新、イベント情報等
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 今般の参議院選挙では原子力発電所の新増設を公約に掲げる野党が躍進。これを待っていたかのように関西電力は美浜原発の新設に向けての調査を開始。14年前の東京電力福島第一原発の事故は忘れ去られてしまったかのようです。今号は原発被災地の現状、とりわけ中間貯蔵施設にフォーカスしてみました。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)にコツコツと配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/

-除去土壌等を保管している仮置場等の箇所数の推移-

【ポイント】
 原発事故後、一時期は1000箇所を超えていた除去土壌等を保管する仮置き場等の箇所数は現在までに急速に減少しています。

私事で恐縮ながら、東日本大震災・原発事故の後、最初に福島・浜通りをボランティアで訪ねたのは2011年6月のこと。水田に打ち上げられ横倒しになったままの漁船の姿などに息を飲みました。その後、ふくしまオーガニックコットンのツアー等で何度も訪ねるうち、がれき(よくない言葉ですね)等の撤去がどんどん進む一方で、逆に目についてきたのが黒いフレコンバッグの山でした。
 除染が進むに連れて大量に発生した除去土壌等を詰めたもので、国道沿いの仮置き場にも積み上げられたフレコンバッグの山を車窓から見るたび、その膨大な量に圧倒される思いがしました。
 しかし、この山は次第に目立たなくなり、やがて視界から消えていきました。リンク先の図321は、除去土壌等を保管している仮置き場等の箇所数の推移を示したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2025/07/321_kariokiba.pdf

これによると、除去土壌等を保管中の仮置き場等は2017年頃までは1000箇所以上ありましたが、その後、急速に減少し、現在は9箇所のみとなっています。つまり、99%の仮置き場等では除去土壌等の搬出が完了しており、94%は原状回復もなされて地権者に返還されているとのことです。
 この地が放射能に汚染された現実を見せつけるかのようなフレコンバッグの山が消えたことは、地域住民の方々にとっても喜ばしいことと思われます。しかし、除去土壌等は消滅したわけではありません。2025年6月末時点で、約1,411万立方メートルが中間貯蔵施設に搬入されているのです。

[データの出典]
環境省除染情報サイト「データでみる福島再生」(2025年7月7日)
https://josen.env.go.jp/plaza/info/data/pdf/data_2507.pdf

◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/

-中間貯蔵施設とは-

【ポイント】
 福島・大熊町と双葉町にまたがる区域で除去土壌等を中間貯蔵する施設が整備されています。なお、除去土壌等は30年以内に福島県外で最終処分することが法律で決められています。

画像:環境省「中間貯蔵施設情報サイト」動画「10分でわかる中間貯蔵」より

中間貯蔵施設とは、放射性物質汚染対処特措法等に基づき、福島県内の除染に伴い発生した除去土壌及び福島県内に保管されている10万ベクレル/kgを超える焼却灰等を、最終処分するまでの間、集中的に管理・保管することを目的として整備が進められている施設です。
 区域は大熊町、双葉町の、事故を起こした東電福島第一原発の敷地を取り囲むように設定された約1,600haで、区域内の地権者数は2,360人で、うち1,911人(1,314ha)と契約済みとされています(2025年6月末時点)。
 このことに関連して、環境省のホームページには「地権者との信頼関係はもとより、中間貯蔵施設事業への理解が何よりも重要であると考えており、引き続き、地権者への丁寧な説明を尽くしながら取り組みます」とあります。

中間貯蔵施設への除去土壌等の搬入は2015年3月から開始され、おおむね2021年度で完了しているとのこと。また、中間貯蔵施設で保管されている除去土壌等は、貯蔵開始後30年以内に福島県外で最終処分を完了することが法律(中間貯蔵・環境安全事業株式会社法(JESCO法))で定められていますが、最終処分地の選定作業は進捗していません。
 さらに、国は最終処分量を減らすために汚染度の低い除去土壌の再生利用を進めようとしていますが、東京・新宿御苑等で計画されている実証事業には着手できていない現状にあります。

[参考]
環境省 中間貯蔵施設情報サイト
https://josen.env.go.jp/chukanchozou/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/

-門間好春『未来へのバトン 福島中間貯蔵施設の不条理を読み解く』(2025.3、インパクト出版)-
https://impact-shuppankai.com/products/detail/357

【ポイント】
 著者は、中間貯蔵施設の不条理を多くの人に知ってもらいたいと訴えつつ、「私たちおとなは子どもたちに明るい未来のバトンを渡す責任がある」としています。

1957年大熊町生まれの著者は、2018年から30年中間貯蔵施設地権者会の会長を務めておられます。
 30年中間貯蔵施設地権者会とは、国が地権者の意向を無視して一方的に用地の契約等を進めようとするのに対して、地権者が団結して交渉を行うとともに、30年後には最終処分場への廃棄物移送を完了させるという約束を守らせることを目的に、2014年に設立された組織です。

著者は、中間貯蔵施設の不条理を一人でも多くの方に知ってもらい、自分ごととして考えてもらいたいという思いで、本書を出版されたました。その不条理とは、例えば30年という期間限定の事業であるにもかかわらず国は買収(国有地化)で進めようとしたこと、公共事業のルールに反して地上権価格を設定し、その価格も原発事故後の土地価格で評価していること、地上権契約者は東電の営農賠償の対象外とされていること等。
 さらに、仮置き場との賠償額に差があることについては、被災者同士の分断を図ろうとする加害者(国・東電)側の意図があるのではとしています。
 また、著者は、国と東電の被災者である地権者に対する不誠実さ、約束違反や逃げの姿勢、加害者としての責任感の希薄について厳しく糾弾・告発しています。2014年当時の石原環境大臣の「最後は金目でしょ」発言も紹介されています。

そして、2045年3月12日で中間貯蔵施設は終了、2051年で廃炉は完了すると国・東電が公表していることについて、「ウソはダメ、約束は守られなければいけない」と強調する同時に、「私たちおとなは子どもたちに明るい未来のバトンを渡す責任がある」と本書を結んでいます。

ところで7月22日(火)正午のNHKニュースでは、首相官邸の庭に除染土が運び込まれ再生利用が始まったとの報道がありました。耳を疑ったのは「放射線量は0.11シーベルト/時で工事前とほぼ同じ」とのナレーション。午後1時のニュースでは「マイクロシーベルト」とさりげなく訂正されていましたが、当初は原稿を書いた人も担当ディレクターも読み上げたアナウンサーも、誰も間違いに気づかなかったのです。
 以前は、放射線による健康被害の可能性についてはマスコミも含めて神経質とも言えるほどの慎重な対応が行われていたことを思うと、このようなところにも「原発事故の風化」を感じざるを得ませんでした。

日本の政治・社会が大きく原発推進の方向に舵を切りつつある現在、著者の「原発事故から10年以上が経過し、その複合的な問題がさらに複雑かつ大きくなっている」「原発は公共の福祉に反する」等の痛切な言葉に耳を傾け、胸に刻む必要があります。

参考
30年中間貯蔵施設地権者会ホームページ
https://30nenchikensya.org/

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。

▼第3回「食と農の未来フォーラム」の開催について(8月26日(火)予定)
 本フォーラムは、都会の一般市民(消費者)の皆さんを主な対象として、食と農の現場の課題を身近に感じ、自主的な行動変容につなげて頂く(食と農の間の距離を縮める)ことを期待して開催しています。去る7月23日(水)には大友 治さん(本木・早稲谷 堰と里山を守る会、福島・喜多方市山都)をゲストにお迎えして第2回を開催しました(内容は追って拙ブログで紹介させて頂く予定です)。

 第3回は、鈴木純子さん(ふくしまオーガニックコットンプロジェクト、いわき市)をゲストにお迎えし、「原発被災地でオーガニックコットンを育てること」(仮題)をテーマにオンライン開催する予定です。
 募集の準備が整い次第ご案内させて頂きますので、多くの方の参加申し込みをお待ちしています。
(参考)
https://food-mileage.jp/2025/07/21/250714_torasi/

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
〇 ソーラーシェアリングフェスティバル ~第3回全国大会~[7/11]
https://food-mileage.jp/2025/07/11/blog-588/

〇 オーガニックコットン畑で草取り(福島・いわき市)[7/12]
https://food-mileage.jp/2025/07/12/blog-589/

〇 プレゼントツリー20thサミット in TOKYO[7/16]
https://food-mileage.jp/2025/07/16/blog-590/

〇 地域農政未来塾、さいはら雑穀応援団[7/21]
https://food-mileage.jp/2025/07/21/blog-591/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

〇 全生園の明日をともに考える市民の会 定例会
 日時:7月26日(土) 19:00~
 場所:社会福祉センター(東京・東村山市諏訪町1)
 主催:全生園の明日をともに考える市民の会(あすとも)
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/asutomo.zenshouen

〇 第215回 霞ヶ関ばたけ
 「Z世代農家の話を聞こう~なぜ私は農を選んだのか~」
 日時:8月2日(土)9:30~11:30
 場所:官民共創HUB(東京・港区虎ノ門1)
 主催:霞ヶ関ばたけ
 (詳細、問合せ等↓)
https://kasumigasekibatake-215.peatix.com/

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* 米令寺忽々のコツコツ小咄
「自公の人たち、なんか、よれよれだね」
「憔悴(少数)与党だからね」

 個人のフェイスブックで週3日お披露目中。過去のアーカイブは以下に掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.322は8月8日(金)[和暦 閏水無月十五日]に配信予定です。暦の上では立秋を迎えていますが・・・
 正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつも有難うございます。
https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F.M.Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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