【ほんのさわり】吉田 裕『日本軍兵士』

本書は、日本だけでも310万人(軍人・軍属230万人、民間人80万人)が戦没したアジア・太平洋戦争について、「兵士の目線」で「兵士の立ち位置」から、凄惨な戦場の現実(死の現場)を直視することを試みたものです。

 まず、戦病死者が非常に多いことが指摘されています。  戦場における死の最大の原因は、戦闘による死(戦死)ではなく、餓死を中心とした戦病死でした。戦況の悪化(制海・制空権の喪失)に伴い補給路は寸断され、戦争末期には輸送された食糧の半分近くが前線に到達せずに失われたそうです。
 これら食糧不足や心身の疲労に加え、ストレスや恐怖等によって体内の調節機能が変調を来し、身体が生きることを拒否する「戦争栄養失調症」が蔓延していました。
 さらに飢餓が深刻になると、食糧強奪のために友軍を襲撃・殺害するような事件があったことも紹介されています。… 続きを読む

【ほんのさわり】鈴木善次(監修)『食農で教育再生』)

(監修)鈴木善次、(編著)朝岡幸彦、菊池陽子、野村卓
 『食農で教育再生-保育園・学校から社会教育まで』
 (農山漁村文化協会、2007.2)
 http://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_4540063049/ 

本書は、食育基本法が成立(2005年)し「食育」という言葉が流行になっていた当時、それ以前から地道に「食農教育」に取り組んできた研究者や実践者により、将来の日本の「食」のあり方、教育のあり方について検討されたものです。… 続きを読む

【ほんのさわり】枝廣淳子『地元経済を創りなおす』

-枝廣淳子『地元経済を創りなおす』(2018.2、岩波新書)-
 https://www.iwanami.co.jp/book/b345708.html 

 著者は東京都市大学教授で、幸せ経済社会研究所所長。
 アル・ゴア『不都合な真実』を翻訳・紹介するなど地球環境・エネルギー問題の分野を中心に活躍されてきた著者ですが、近年は地域経済に強い関心を持っておられるようです。
 著者によると「未来は地域にしかない」とのこと。… 続きを読む

【ほんのさわり】山下祐介『限界集落の真実』

山下祐介『限界集落の真実-過疎の村は消えるか?』(2012.1、ちくま新書)
 http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480066480/

 本書は、2007年頃から「限界集落」に関する議論が高まり、さらに2011年の東日本大震災よって問題が先鋭化する中、あえて「常識」に抵抗するために発表されたそうです。
 その「常識」とは、「少子高齢化の進行により多くの集落が消えつつある」、「限界集落のように効率性の悪い地域には、この際、消滅してもらった方がいい」というもの。

 これに対して著者は、自身のフィールドワーク(青森、新潟、高知、鹿児島等)を基に、ダム建設や災害による移転は別にして、「少子高齢化が原因で消えた集落など、探し出すのが難しいくらい」としています。… 続きを読む

【ほんのさわり】富山和子『水と緑と土』

富山和子『水と緑と土-伝統を捨てた社会の行方(改版)』(2010.7、中公新書)
  http://www.chuko.co.jp/shinsho/2010/07/190348.html

 本書の主題は、日本人と川(水)との関わりです。
 歴史的に日本人にとっての最大の課題とは川とどうつきあうかということであり、同時に、日本人にとって自然の恵みとは川が運んでくれる水と土壌の惠みに他なりませんでした。… 続きを読む

【ほんのさわり】司馬遼太郎『潟のみち』

司馬遼太郎『潟のみち』(2008.10、朝日文庫(街道をゆく9))
 https://publications.asahi.com/kaidou/09/index.shtml

 「農業というのは、日本のある地方にとっては死に物狂いの仕事であったように思える」
 本書の冒頭の文章です。

 1975年11月、新潟・亀田郷(現在は新潟市の一部)を訪ねる作家は、それに先立ち、亀田郷の土地改良の歴史と現状を描いた映画を観て衝撃を受けます。… 続きを読む

【ほんのさわり】勝俣 誠(監修)『世界から飢餓を終わらせるための30の方法』

-勝俣 誠(監修)、特定非営利活動法人ハンガー・フリー・ワールド(編集)『世界から飢餓を終わらせるための30の方法』(2012/4、合同出版)-
 http://www.godo-shuppan.co.jp/products/detail.php?product_id=322 

 監修者は1946年東京生まれの明治学院大学教授・国際平和研究所(PRIME)所長(刊行当時。現在は同大学名誉教授)。開発経済学、アフリカ地域研究の第一人者の方。
 また、ハンガー・フリー・ワールド(HFW)は、飢餓のない世界を作ることを目的に活動する国際協力NGOです。… 続きを読む

【ほんのさわり】生源寺眞一『(新版)農業がわかると社会のしくみが見えてくる』

-生源寺眞一『(新版)農業がわかると社会のしくみが見えてくる 高校生からの食と農の経済学入門』(2018.4、家の光協会) -
  http://www.ienohikari.net/book/9784259518660

著者は1951年愛知県生。農林水産省試験場研究員、東京大学農学部教授・同学部長等を経て、現在は今年度から開学した福島大食農学類の初代学類長を務めておられます。また、日本農業経済学会長、日本学術会議会員等を歴任されるなど、日本の農業経済学の分野における第一人者です。… 続きを読む

【ほんのさわり】菊池勇夫『飢饉』

菊池勇夫『飢饉』 (2000.7、集英社新書)
 https://amzn.to/2Pgpus1

本書は、1950年青森県生まれで日本近世史・北方史を専門とする著者が、日本における飢饉の歴史を明らかにし、その発生メカニズムや未然に防ぐための社会システムのあり方等を論じた書です。

「日本書記」以来、数年に一度、あるいは毎年のように日本のどこかで飢饉は発生していたとのこと。… 続きを読む

【ほんのさわり】菅野正寿、原田直樹『農と土のある暮らしを次世代へ』

-菅野正寿、原田直樹『農と土のある暮らしを次世代へ』 (2018.7、コモンズ) -
 http://www.commonsonline.co.jp/books/books2018/201807no_to_tuchi_noaru_kurashi.html

編著者は、福島県有機農業ネットワークの前代表である二本松市東和地区の農家と、日本有機農業学会理事を務める新潟大学教授の2人。… 続きを読む

【ほんのさわり】早川タダノリ編著『まぼろしの「日本的家族」』

-早川タダノリ編著『まぼろしの「日本的家族」』(2018.6、青弓社)-
 https://www.seikyusha.co.jp/bd/isbn/9784787234377/

編著者は1974年生まれ。フィルム製版工などを経て現在は編集者。
 本書においては、近年、自民党の「日本国憲法改正草案」(2012年)に代表される右派の言説において「伝統的家族像」が理想的なものとして推奨されているとし、その事例として、食育の第一人者・H氏(本書中では本名で登場)の以下のような発言(概要)が取り上げられています。

「昔、朝と晩の二回は一家団欒で食卓を囲んだものでした。みんなで食事をすることこそ家族なんです。憲法は個人だけを強調することで、家族をバラバラにして、その流れの中で食卓も崩壊しているのです」… 続きを読む