【メルマガ】F.M.Letter No.176

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.176◇
 2019年9月13日(金)[和暦 葉月十五日]発行
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◆ F.M.豆知識  震災関連死の死者数の推移
◆ O.カレント  ICRPの新勧告草案
◆ ほんのさわり 青木美希『地図から消される街』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 台風15号の影響により千葉県を中心に大規模停電と断水が発生、今も復旧していません。日常生活を奪われている皆さまにお見舞いを申し上げます。8年半前の東日本大震災では多くの方の日常が失われたことを忘れてはなりません。
 時の流れを体感するため、本メルマガは和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/mame/

-震災関連死の死者数の推移-

震災関連死とは、建物の倒壊や津波など直接的な理由ではなく、震災による負傷の悪化や避難生活における身体的負担(疾病等)による死亡のことです。
 リンク先の図176は、東日本大震災における震災関連死の死者数を、死亡の時期別、都道府県別に示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2019/09/176_kanren.pdf

 2019年3月31日現在における死者数は、1都9県で計3,723人。
 都道府県別にみると、福島県が2,272人と全体の61%を占めており、次いで宮城県(25%)、岩手県(13%)となっています。
 死亡の時期別にみると、9割以上は発災から3年以内(2014年3月10日まで)に集中していますが、福島県においては4年目以降もゆるやかに増加しています。

 また、東日本大震災における死者・行方不明者数は全国で18,479人(2019年9月10日現在、警察庁)となっており、関連死者数の約5倍となっていますが、福島県においては、逆に関連死による死者数が直接の死者・行方不明者数(1,810人)を上回っています。
 福島県において関連死者数が多いのは、東京電力原子力発電所事故に伴う避難等の影響によるものです。多くの方が長時間の移動を重ね、避難後も十分な医療提供を受けらないという事態が多発しました。
 本来、動かしてはならない要介護病弱高齢者の方達も、病院や施設からの避難を余儀なくされ、そのために多くの方が亡くなられました。

 このように東日本大震災においては、福島県を中心として、「助かった、助けられたはずなのに亡くなった」多くの方がおられるのです。この重い教訓は、果たして十分に活かしされているでしょうか。

[出典等]
 復興庁「東日本大震災における震災関連死の死者数」(2019年6月)
 http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/sub-cat2-6/20190628_kanrenshi.pdf

◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/pr/

-ICRPの新勧告草案-

ICRP(国際放射線防護委員会)とは放射線防護の専門家による一種の国際NGOです。
 これまで150近く出されている勧告等は、国連機関の指針等に反映されるとともに、各国の放射線防護に関する法制度等に取り入れられています。
 2011年3月の福島原子力発電所の事故に関する日本政府の放射線防護に関する施策も、ICRPの勧告に基づいて行われています。

 そのICRPが、現在、福島原発事故を踏まえた新しい勧告を作成しており、その草案がホームページ上に公開され、9月20日を期限としてパブリックコメントが実施されています。
 パブリックコメントについては、ICRPのホームページから誰でも書き込むことができます(日本語も可)。

 草案本体は英語ですが、概要についてはICRPによる日本語訳がホームページに掲載されており、また、本文についても、NPO市民科学研究室(市民研)など8市民団体有志による翻訳を市民研のホームページ等で閲覧することができます。
 さらに、10月25日(金)には東京でICRP主催のシンポジウムが予定されており、日本からのコメントについては、この日までに受け付けるともされています。

 今回の草案には、過去の勧告と異なる内容も含まれています。
 例えば放射能防護の参考レベルは、2008年勧告では「年間1~20ミリシーベルトの範囲」とされていましたが、今回は10ミリシーベルトという数値が明記されました。
 これは現行の日本の避難指示時解除の基準(20ミリシーベルト以下となることが確実)と異なり、また、さらに低い値とすべきというコメントも出されています。

 ICRPは当事者(ステークホルダー)の声を重視するとしていることもあり、パブリックコメントは、世界に日本の現実を知らせるいい機会であることは間違いありません。

[参考]
 ICRPホームページ(パブコメ)
 http://www.icrp.org/consultation.asp?id=D57C344D-A250-49AE-957A-AA7EFB6BA164
 市民研ホームページ(ICRP草案の日本語訳等)
 https://www.shiminkagaku.org/icrpdraft_translation/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/br/

-青木美希『地図から消される街-3.11後の「言ってはいけない真実」』 (2018.3、講談社現代新書)-
 http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000190725

著者は北海道新聞等を経て朝日新聞の記者。
 携わった「手抜き除染」報道等は新聞協会賞を受賞し、さらに本書は貧困ジャーナリズム大賞、日本医学ジャーナリスト協会賞特別賞を受賞しています。

 東日本大震災から7年(本書刊行時)が経過する中、世間の関心は五輪やワイドショー的な事件に向い、原発事故のことは急速に忘れ去られつつあります。
 そのような世間の無関心をいいことに、避難者等に対する支援は打ち切られ、原発事故は「なかったこと」にしようとする国の思惑通りに進んでいることに、著者は危機感を抱き、「声の小さい弱者」の方たちへのインタビューを重ねます。

 声を上げることのできない東電の現地採用社員、横行する「手抜き除染」を強いられる除染作業員、ハクビシンに自宅を荒らされて声を失う旧住民など。
 そして「帰らないわがままな人たち」とレッテルを貼られる避難者の方たち。
 例えば2人の子どもを連れて東京に母子避難した女性は、住宅支援が打ち切られるなか心因性の病気になり、ついには自死を遂げます。
 避難者であることを理由にいじめられていることを告白した子どもを「虚言癖がある」と決め付ける教育委員会の指導主事、「私も住んでいるんだから危険などと言わないで下さい。あの人たち(自主避難者)って“お金持ち”なんですよ」とささやく県庁職員の姿等も描かれています。

 「復興が進んでいるという明るい面ばかり報道される」という現地の方の声を受けて、あえて「帰還政策」の欺瞞を告発したベストセラー。原発事故のことを忘れかけている私たちに取って、必読の書といえます。
 しかし一方で、自ら帰還することを選び、被災地で困難な暮らしを送りつつも頑張っている多くの方達もおられることも、忘れてはならないと思いました。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。
 ▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 大沼淳一さん「脱原発と地域づくり」(脱成長MTG)[9/1]
 https://food-mileage.jp/2019/09/01/blog-213/

○ 井本喜久さん「次世代型コンパクト農業で耕作放棄地ゼロ」(霞ヶ関ばたけ)[9/4]
 https://food-mileage.jp/2019/09/04/blog-214/

○ Jazz & Reading Night「本当の戦争の話をしよう」[9/8]
 https://food-mileage.jp/2019/09/08/blog-215/

 ▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ へんぼり集落秋祭り!人里三匹獅子舞!
 日時:9月14日(土)16:00~15日(日)16:00
 場所:へんぼり堂(東京・檜原村人里)
 主催:東京ひのはら村ゲストハウス・へんぼり堂
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/1208205176050224/

○ 第11回 勉強会
 日時:9月17日(火)13:30~16:00
 場所:中央区立環境情報センター(東京・京橋3)
 主催:銀座農業コミュニティー塾
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/1126334670886893/

○ 共奏キッチン♪@自由が丘シェア奥沢#95
 日時:9月18日(水)17:30~21:30
 場所:シェア奥沢(東京・世田谷区奥沢2)
 主催:共奏キッチン♪
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/504565873663904/

○ 第14回ロータス寺市
 日時:9月21日(土)10:30~16:30
 場所:常圓寺(東京・西新宿7)
 主催:NPO法人ロータスプロジェクト等
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/2356560424620152/

○ 奥沢ブッククラブ第48回
 コエーリョ「アルケミスト」
 日時:10月12日(月)18:30~21:00
 場所:シェア奥沢(東京・世田谷区奥沢2)
 主催:奥沢ブッククラブ
 (詳細、お問合せ先等↓)  https://www.facebook.com/events/2088986124737809/

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*舞麗児忽々の今号のコツコツ小咄。
「半熟を4個頼んだのに、2個は茹で卵で2個は生のままだよ」
「はい、半分、煮てお持ちしました」
 注:元ネタは夏目漱石『二百十日』から。
 コツコツ小咄(まとめ)は拙ウェブサイトにも掲載してあります。
 http://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号 No.177は9月29日(日)[和暦 長月朔日]の配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
 いつもありがとうございます。
 http://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。

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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
 発行者:中田哲也
 https://archives.mag2.com/0001579997/
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