【メルマガ】F.M.Letter No.301-pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.301◇
  2024年10月3日(木)[和暦 長月朔日]
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◆ F.M.豆知識  農業生産資材価格の高騰
◆ O.カレント  「合理的な価格」とは
◆ ほんのさわり 金子美登・友子『有機農業ひとすじに』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 300号記念の「お礼の会」には多くの方に臨席賜り感謝申し上げます。多くの皆様にご案内できなかった不義理をお詫び申し上げます。
 引き続き本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)にコツコツと配信していきますので、どうぞよろしくお願いします。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−農業生産資材価格の高騰−

【ポイント】
 農業生産資材の価格は2021年頃から高騰し、現在も高い水準で推移しています。これらコスト上昇分は、農産物価格には十分には反映(転嫁)されていません。

肥料、飼料等の農業生産資材の価格は、国際需給の引き締まり、円安の進行、ウクライナ危機等の影響により、2021年半ば以降、大きく上昇しています。
 リンク先の図301は、2020年以降の主な資材価格指数の推移を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/10/301_bukka.pdf

これによると、資材価格(総合)は、国際的な原油価格や飼料穀物価格の上昇により2021年に入る頃から上昇基調となっています。2022年に入ってからはウクライナ危機により肥料価格が上昇したこともあってさらに高騰し、この結果、23年平均の資材価格指数(総合)は121.3と統計のある1951年以降で最も高い数値となりました。23年以降はほぼ横ばいと、現在も高い水準で推移しています。
 このような資材価格高騰の背景には、農業資材(原料)の多くを輸入に依存しているという事情があります。肥料原料の一部(塩化カリ)は、ウクライナ危機以前はロシアやベラルーシから相当量を輸入していました。
 また、図には示されていない人件費や物流費等のコストも上昇しています。

一方、破線で示している農産物価格指数ついては、2022年以降は上昇傾向にあるものの、その上昇の幅は資材価格(コスト)に比べて穏やかです。これらの価格指数自体は農業経営の収益性を直接表す指標ではありませんが、コスト上昇分が十分に価格に反映(転嫁)されていない状況が伺われます。
 特に、現在価格上昇が話題となっている米については、これまで特に低い水準で推移してきていることが分かります。

[データの出典]
 農林水産省「農業物価統計」から作成。
 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noubukka/index.html

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−「合理的な価格」とは−

【ポイント】
 持続的な食料供給のためには、コストが合理的に価格に反映(転嫁)されることが必要です。このことについて私たち消費者も理解し、実践していく必要があります。

農林水産省「適正な価格形成に関する協議会」第2回資料より

本年6月に改正・施行された食料・農業・農村基本法において、基本理念の最初に位置付けられた「食料安全保障の確保」とは「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、・・・」と定義されています(第2条1項)。
 また、合理的な価格については「農業者、事業者、消費者などの関係者により、食料の持続的な供給に要する合理的な費用が考慮されるようにしなければならない」(同5項)とされ、その理解の増進のための施策が必要とされています(第23条)。

「豆知識」欄でみたように、現在の農産物価格にはコスト上昇分が十分に反映(転嫁)されているとは言えません。
 この背景には、日本が長くデフレ下にあり、賃金や消費者の購買力が低迷しているという一般的な情勢があります。一方で、農業生産の現場では、コストを賄えない多くの生産者が、高齢化もあって離農・廃業しつつあります。このような状況が続けば、持続的な食料生産(国内供給力、自給力)の確保の面から大きな懸念が生じかねません。
 農林水産省は、現在、「適正な価格形成に関する協議会」を開催し、コストが考慮される仕組みの法制化に向けて検討を行っています。

生産者からは「コスト高騰に対する消費者の理解が進んでいない」といった声も出ています。私たち消費者は、日本における食料の持続的な供給のために何ができるかを考え、実践していくことが求められています。

[参考]
 適正な価格形成に関する協議会(農林水産省HP)
 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/kikaku/kakaku_keisei/imdex.html

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−金子美登・友子『有機農業ひとすじに』(2024年3月、 創森社)−
 https://www.soshinsha-pub.com/bookdetail.php?id=437

【ポイント】
 故・金子美登さんと妻の友子さんによる取組みは、日本の有機農業の歩みそのものでした。友子さんは「いのちを守る農場」が続いていくことを願っておられます。

日本の有機農業の第一人者である金子美登(よしのり)さんは、1948年埼玉県の生まれ。1971年から先駆的に始められた有機農業の取組み(小川町の霜里農場)は、正に日本における有機農業の歩みそのものでした。しかし残念ながら2022年9月、美登さんは74歳で急逝されました。田んぼの見回り中だったそうです。
 本書では、これまでの霜里農場の歩みと今後の有機農業の展望等が、様々なエピソード・ハプニング、研修生など多くの人々との交流の様子とともに紹介されています。

美登さんの取組みの基底には、農業と工業とは本質的に違うという信念がありました。
 すなわち、農業は工業とは異なり自然の力を引き出す生命性の生きた生産体系であり、食べ物は生命を維持する他に替え難いもので、単なる商品にはしたくないというものでした。

1971年、20歳代前半の美登氏は、そのような理想を実現するために「消費者とともに築く自給農場」づくりの実験をスタートします。前例もモデルもありませんでした。
 米や野菜、鶏卵等を毎月2回届ける会費制の会員を、自転車で行き来できる地元の小川町で探したそうですが、なかなか理解してもらえず、10軒を集めるのに4年もかかったそうです。
 農業生産は天候に左右されるため、量が少なくなってしまうこともあります。会員のなかには、届けた野菜の目方を量り、八百屋の値段と比べて会費(月2万7千円)が高いのではないかと言う者も出てきたそうです。
 美登氏は「なぜ日本の消費者は毎日の価格で損得を計算するような価値観を持っているのか。株式会社も1年決算ではないか。有機農業で提携する場合は、10年くらいの長い目で損得を考えてもらいたい」と思ったそうですが、なかなか理解されなかったとのこと。
 さらには「援農にも来て農家の生活を保障しているのだから、農地や山林も会員で平等に分けるべき」と言う会員まで出てきた時には、びっくり仰天し、信頼関係は失われ、会費制農場の試みは25ヶ月で挫折したそうです。

代わりにスタートしたのが「お礼制」でした。
 これは、欲しいという消費者には定期的に農産物を届け、これに対して会費ではなく気持ちとしての「お礼」をいただくというもので、昔からの農村共同体のなかから出てきた考え方だったそうです。これによって、ようやく消費者との間で有機的な人間関係が築くことができたそうです。
 このように、「有機農業のカリスマ」とさえ呼ばれた美登さんにも、消費者とのつき合い、価格設定のあり方には、大変な苦労があったことがうかがえます。

また、美登さんは「会費制が挫折し現金収入がほとんどゼロになった時も、農産物を自給している農家は強いと実感した。国も農業さえしっかりしていればびくともしない」「経験上1人当たり必要な農地面積は5アール程度で、有機農業で80〜90%の自給は可能ではないか」とも語っておられます。

実子のなかった金子さんご夫妻ですが、現在は霜里農場は養子ご夫妻に引き継がれています。友子さんは「いのちを守る農場として将来につなげていってほしい」と願っておられます。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ イナゴンピックと昆虫食[9/22]
 https://food-mileage.jp/2024/09/22/blog-534/

○ 拙メルマガ300号記念「お礼の集い」[9/25]
 https://food-mileage.jp/2024/09/25/blog-535/

○ 人も環境も地球も救う菌ちゃん農法−現地見学会及び講演会(東京・日野市)[9/29]
 https://food-mileage.jp/2024/09/29/blog-536/

○ おいしい未来をつくる読書会#3『フード・マイレージ』[9/30]
 https://food-mileage.jp/2024/09/30/blog-537/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

○【キャンセル待ち】ふくしまオーガニックコットンボランティアツアー2024「収穫」編〜さよなら天ぷらバス〜
 日時:10月5日(土)東京駅7:15 集合〜19:00解散予定
 場所:福島・いわき市内
 主催:リボーン
 (詳細、問合せ等↓)
 https://reborn-japan.com/domestic/14747

○ 第108回ブッククラブ『忘れられた日本人』宮本常一
 日時:10月14日(月)19:00〜21:00
 場所:オンライン
 主催:奥沢ブッククラブ
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/events/516459470973037/

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
 国際情勢はますます混迷を極めていますが、多方面からの熱い要望に応えて(ほんまかいな)再開します。世界ぜんたいの平和と幸福を祈りつつ。

 「何でもスマホに頼っていたら、記憶力も思考力も衰えちゃうよ。踏切にも書いてあるでしょ」
 「えっ、なんて?」
 「ぐぐるな、あぶない」

 過去のアーカイブは以下に掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.302は10月17日(木)[和暦 長月十五日]に配信予定です。
 正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』(今年は北斎手帳)を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F.M.Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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