【ほんのさわり265】桐村里紗『腸と森の「土」を育てる』

−桐村里紗『腸と森の「土」を育てる−微生物が健康にする人と環境』 (2021/8、光文社新書)−
 https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334045562

著者は1980年岡山県生まれの内科医・認定産業医。
 臨床現場では生活習慣病から終末期医療まで幅広い診療経験を積まれると同時に、「ヘルスケア」の再定義など情報発信等に努めておられます。… 続きを読む

【ほんのさわり264】宮台真司『日本の難点』

−宮台真司『日本の難点』 (2009/4、幻冬舎新書)−
 https://www.gentosha.jp/store/ebook/detail/1599

著者は1959年宮城県生まれの社会学者、評論家。
 昨年11月29日夕、教授を務める首都大学東京での講義を終えて1人でキャンパス内を歩いていた際、男に襲われて重傷を負ったとのニュースには驚きましたが、その後、快復されて活動を再開されていると伺い安堵しています。なお、容疑者とみられる男は12月に死亡(自死)が確認されています。… 続きを読む

【ほんのさわり263】谷口信和ほか『食料安保とみどり戦略を組み込んだ基本法改正へ』

−谷口信和ほか『食料安保とみどり戦略を組み込んだ基本法改正へ−正念場を迎えた日本農政への提言』(日本農業年報68、2023年3月、筑波書房)−
 https://shop.ruralnet.or.jp/b_no=05_81190645/

気候危機、パンデミック、ロシアによるウクライナ武力侵攻により世界的な食料危機および各国の農業の持続性の危機が顕在化するなか、現在、食料・農業・農村基本法の見直し作業が行われています。しかし、本書においては、現在までのところ日本農政の立て直しの方向は見えていないとして、11名の識者による基本法の改正の方向及び具体的な提言が収録されています。

編集代表でもある谷口信和(東京大学 名誉教授)は、新たな基本法の最重要目標は食料自給率の向上であるとし、その実現のためには、耕作放棄地の復旧を軸とした農地の拡大、農業への幅広い国民の参加、地産地消など循環型の地域農業の構築が重要であるとしています。… 続きを読む

【ほんのさわり262】ジェシカ・ファンゾ『食卓から地球を変える』

−ジェシカ・ファンゾ『食卓から地球を変える−あなたと未来をつなぐフードシステム』(2022年3月、日本評論社)−
 https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8763.html

著者はジョンズ・ホプキンス大学(アメリカ・ボルチモア)公衆衛生大学院の特別教授等を務めており、専攻は世界食料・農業政策及び倫理学とのことです。
 大学院で分子栄養学の学位を取得した著者は、「無菌実験室」を離れ、ウガンダやケニア、東チモール、ミャンマーなどの「現場」で、エイズなど公衆衛生や栄養改善の課題解決に向けて取り組みました。さらにその後は、よりグローバルな視点からのフードシステム(農場から食卓まで、食べものに関わる全てのもの)の課題解決のため、FAO等の国際機関において調査研究に従事し、イート・ランセット委員会の報告書(「オーシャンカレント」欄参照)作成にも委員として参画しています。

著者によると、私たちが口にする食べものは単なる栄養源ではなく、個人や地域の栄養や健康、地球全体の天然資源や気候変動、公平性など社会正義の課題に直接大きな影響を与えているとのこと。つまり、食べものは私たちと世界を繋ぐものなのです。… 続きを読む

【ほんのさわり261】田口幹人『まちの本屋』

−田口幹人『まちの本屋−知を編み、血を継ぎ、地を耕す』(2019年5月、ポプラ文庫)−
 https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8101380.html

著者は1973年岩手県生まれ。盛岡市の書店での5年半の勤務を経て実家の書店を継ぐも、倒産。別の盛岡市内の書店に再就職し、独自の店づくりと情報発信によって全国的に注目された方です。

著者によると、「本屋は農業」とのこと。
 普段から客とのコミュニケーションを図り、常に棚にも手を加えて変えていくという(本屋を耕す)努力がなければ、いくらPOPやパネルを置いても、客との信頼感は生まれないとしています。… 続きを読む

【ほんのさわり260】松尾康範『居酒屋おやじがタイで平和を考える』

−松尾康範『居酒屋おやじがタイで平和を考える』(2018年7月、コモンズ)
http://www.commonsonline.co.jp/books2018/2018/07/28/%e5%b1%85%e9%85%92%e5%b1%8b%e3%81%8a%e3%82%84%e3%81%98%e3%81%8c%e3%82%bf%e3%82%a4%e3%81%a7%e5%b9%b3%e5%92%8c%e3%82%92%e8%80%83%e3%81%88%e3%82%8b/

昨年12月18日(日)に東京で開催された「山下惣一さんを偲ぶ会」の呼びかけ人のお一人で、懇親会の進行を軽妙に務められていたのが松尾康範さんでした。私はこの時に初めてお目にかかり、会場で本書を求めさせて頂きました。

1969年生まれの著者は、学生時代から(特非)日本国際ボランティアセンター(JVC)の活動に関わり、94年にはJVCボランティアとして1年間東北タイに滞在。その後、JVCのタイ現地代表、故・山下さんが共同代表を務められていたアジア農民交流センター(AFEC)の事務局長等として国際協力に尽力し、現在は神奈川・横須賀市久里浜で居酒屋「百年の杜」を営んでおられます。

著者は2017年11月、AFECのメンバーとともに改めてタイを訪ねました。「ちょっと真面目に平和って何?」ということを考えながらの旅だったそうです。… 続きを読む

【ほんのさわり259】後藤静彦『ヒヨコに賭ける熱き思い』

−後藤静彦『ヒヨコに賭ける熱き思い』(1996年1月、日本教文社)−
 https://www.kyobunsha.co.jp/product/9784531062799/book.html

著者は1930年岐阜市生。(株)後藤孵卵場社長、日本養鶏農業協同組合連合会(日鶏連)会長等を務められたのち、1999年に没。
 本書は、著者の父親である後藤靜一(しずいち)氏を主人公とする、日本における養鶏業の黎明期からの「半世紀にわたるドラマ」です。

静一氏は1902年、岐阜県の山間部にある旧根尾村(現本巣市)の裕福とは言えない家に生まれ、高等小学校を中退して大阪の薬問屋に奉公に出ました。その時に肺結核を病みましたが、鶏卵の食事療法で快復した経験から、郷里に戻って養鶏を始めることを決意します。… 続きを読む

【ほんのさわり258】菅野芳秀『七転八倒百姓記』

−菅野芳秀『七転八倒百姓記』(2021年10月、現代書館)−
 https://gendaishokanshop.stores.jp/items/616423afc120961806736463

著者は1949年、山形・長井市生まれの、身長191cm、体重100kgという偉丈夫です。
 三里塚、沖縄という「国家への謀反の現場を転戦」(大野和興氏の解説)したのち、26歳の時に帰郷して「逃げたいと思っていた」家業の農業を継ぎました。

就農早々に直面したのが米の生産調整の問題。… 続きを読む

【ほんのさわり】鈴木宣弘『世界で最初に飢えるのは日本』

−鈴木宣弘『世界で最初に飢えるのは日本−食の安全保障をどう守るか』(2022年11月、講談社+α新書)−
 https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000369740

かねて日本の食と農をめぐる危機を告発し続けてきた著者(東京大学大学院教授)が、ロシアによるウクライナ侵攻など最新の情勢を踏まえ改めて世界的な危機の現状を整理した上で、日本人が飢餓を回避するためのヒントを探った書です。
 帯にある「日本人の6割が餓死する」との刺激的なフレーズは、アメリカの大学の研究者らによる研究成果−核戦争が勃発した場合、食料生産の減少と物流停止によって世界全体で2.55億人が餓死し、うち7200万人が日本に集中するというもの−から引用されています。
 2020年度の日本のカロリーベースの食料自給率は37%(注:21年度は38%)ですが、種や肥料の海外依存度を考慮すると10%にも届かないとの著者の試算も紹介されています。… 続きを読む

【ほんのさわり】『振り返れば未来−山下惣一聞き書き』

−『振り返れば未来−山下惣一聞き書き』(2022年12月、不知火書房)−
 https://www.nishinippon.co.jp/image/581593/

本年7月、佐賀・唐津の農民作家である山下惣一さんが逝去されました(享年86)。個人的な話で恐縮ながら、私にとって山下さんの著作は、人生の節々における羅針盤でした。
 本書は、生前、ご自身の生涯を振り返りつつ語られた内容について、西日本新聞に連載された記事を基に、約2倍の分量に加筆され、一冊の単行本としてまとめられたものです。
 聞き手は、山下さんの弟子と自称されている佐藤 … 続きを読む

【ほんのさわり】小川 糸『ライオンのおやつ』

−小川 糸『ライオンのおやつ』(2022年10月、ポプラ文庫)−
 https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8101455.html

デビュー作『食堂かたつむり』(2008年)でも、食べものにまつわる優しい人生の物語を紡いだ著者の新作。2020年本屋大賞では2位にランクされたそうです(テレビドラマ化もされたとのこと)。
 末期がんの33歳の主人公は、クリスマスの日、瀬戸内海の「レモン島」にあるホスピス「ライオンの家」に入居します。彼女を迎えてくれたのは「マドンナ」と名乗るオーナー兼看護士、医師などのスタッフ、個性的な入居者(ゲスト)たち、一匹の犬。それに高齢の姉妹が作ってくれるおいしい食べものでした。… 続きを読む

【ほんのさわり】アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』

−アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(2020年11月、新潮新書)−
 https://www.shinchosha.co.jp/book/610882/

1974年生まれのスウェーデンの精神科医が、スマホなどデジタル技術に過度に依存することの危険性に警鐘を鳴らした世界的なベストセラーです。

スマホ依存がもたらしている様々な弊害について、本書では実に多くの実験結果や研究成果が引用・紹介されています。
 例えば、スマホやパソコンの前で過ごす時間が長いほど気分が落ち込む。フェイスブックに時間を使う人ほど(他人と比較する等により)自信を失い幸福感が減る。… 続きを読む

【ほんのさわり】中藤 玲『安いニッポン−』

−中藤 玲『安いニッポン−「価格」が示す停滞』(2021年3月、日経BP新書)−
 https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/2021/9784532264536/

著者は1987生まれ。愛媛新聞社を経て現在は日本経済新聞社編集局企業報道部に勤務し、2019年12月に3回にわたって連載された「安いニッポン」シリーズを担当しました。本書は、大きな反響を呼んだこの連載をもとに書き下ろされたものです。

海外旅行先で高い価格に驚いた著者は、各国の様々な「価格」を取材・調査し、日本と比較してみました。… 続きを読む

【ほんのさわり】長野路代、佐藤 弘『ながのばあちゃんの食育指南』

−長野路代、佐藤 弘『ながのばあちゃんの食育指南』(2015年8月、西日本新聞社)−
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/199107/

長野路代さんは1930年、福岡・飯塚市の農家に生まれました。
 終戦後まもなく母親が急逝し、一家の料理作りを十代で担うことに。ところが当時は農家であっても供出等により一握りの米もなく、一日の重労働(農業)を終えて帰ってきた父親が、ドロドロに炊いたサツマイモ等を黙って食べる姿が、涙で見えなかったとのこと。… 続きを読む